2024年5月5日(日)

Wedge REPORT

2012年11月21日

左が『純米大吟醸磨き二割三分』、右が『純米大吟醸50』

 東京での展開が軌道に乗った99年、夏場の経営を安定させるためにと地ビール業をはじめたが、3カ月で頓挫。再び経営危機に陥り、長年通ってくれていた杜氏が蔵を去った。

 しかし、桜井さんはこれを期に社員が醸造を行う体制に変える決断をした。「清酒の醸造は杜氏の伝承技術に負う所が大きく、技術革新による質の向上が疎かになっていました」。杜氏の勘に頼った醸造から、データを基にした科学的な醸造に取り組んだ。さらに、四季醸造を可能にする設備を導入。これにより、同規模の醸造設備を持つ蔵の倍の量を生産することができ、需要に合わせた生産も行うことができるようにした。

 足元の市場が小さいから外に出ざるを得なかった旭酒造。東京で成功しても安住することはなかった。次に向かったのは海外だ。

 「小さい市場で勝負しても駄目です」。東京でヒットした商品が全国に展開するということもあるが、清酒でいえば、全国に地場の酒蔵がいくつもある。小さなパイを巡って取り合いをするのではなく、「広い所で勝負したほうがよい」というのが桜井さんの考えだ。

 「ニューヨークはいいですよ。他社の日本酒が入っているレストランに行って『うちの日本酒のほうがいいですよ』なんてことをしなくても、まだまだ日本酒を置いていないレストランが山ほどあるんですから」と笑う。

 旭酒造は、2000年に台湾(台北)、米国(ニューヨーク)に進出。外食産業が発達していて、日本食人口が比較的多いというのが選んだ理由だ。

 海外でも東京でも桜井さんの手法は変わらない。自ら足を運ぶ。「ニューヨークやパリのレストランに行って、スタッフに『獺祭』を説明します。チップ社会ですから、お客さんに喜んでもらえるものを提供しないとチップの多寡に関わるので、私の説明を必死に聞いてくれます」。

 社員に任せるのではなく、「社長自らがどこへでも出かけて、失敗して恥をかけば、また新しい知恵が出てくるんです」。桜井さんは、将来海外での売上を半分にしたいと考えている。そのためには、「現地生産も必要ですし、外食だけではなく本当の意味でのローカル、つまり家庭にどうやって入り込むかが課題になります」。

(撮影:編集部)

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◆WEDGE2012年12月号より

 

 

 

 

 

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