2024年4月26日(金)

ルポ・少年院の子どもたち

2013年6月17日

 彼にとって家庭は安心していられる場所ではなく、自己主張など許される環境ではなかったのかもしれない。それでも彼は母親のことを愛していた。

 「非行をすればお母さんが悲しむとは思いましたが、自分に都合のいいように考えていたんです。人からお金を取ったりしても、その分、母親の負担を軽くすることができるなんて思ったり、携帯電話代を減らせるとか……、自分の都合のいいように勝手な言い訳を考えていました」

 「結局、お母さんを悲しませてしまいました。お母さんは基本的には優しくて、自分のことをけっこう考えていてくれました」

 非行は様々な要因が複合的に作用して起こるものだ。機能不全家族はその一つだが、両親の極端な力関係の違いや、一方的な親子関係もそれに含まれると考えられる。家庭内で異常な緊張状態を強いられたり、疎外感を味わったりするなど、リラックスすることなく常になんらかの圧力を受けているうちに、健全な自己表現が出来なくなってしまったのかもしれない。

 それを踏まえて、更生に向け「対人スキルを向上させ家族関係を修復する」という個人別教育目標が掲げられている。彼の更生には安心していられる家庭が必要だということである。

規律違反をキッカケに改善されていった人間関係

 水府学院に来た時から、かたくなに人間関係を拒んでいたB少年が変わったキッカケは規律違反だった。具体的な内容には触れることができないが、このときにS教官が「社会はルールを守れない人間を認めないし通用しない。社会はルールを守れる人間を求めている。家族もそうだし、先生も期待している」という内容でかなり厳しい指導を行った。担当する他の教官たちも、時に厳しく、時に優しくアプローチすることによって心を開かせ、信頼の一歩を築いていった。これが入ってから2~3カ月目のことである。この頃から非行に対する内省が進んで行った。

 「彼もよく考えて、このままじゃいけないと気づいたんです。周囲の期待に応えることや社会の要求に応えることの大切さを。それがキッカケで対人関係が少しずつ改善されていくのですが、同時に勉強意欲も出てきたんです。パソコン関係の資格や危険物(乙四)の資格取得などを一生懸命勉強するように変わりました。お姉さんの影響で大学に行きたいという希望を持って、いま彼は高卒認定試験を受験している最中です」

 こうした教え子の変化に若いS教官も誇らしげである。

 話が前後するが、規律違反後の変化の中でもう一つ大きなものがあった。

 「自分と同じような事件の被害者の声を聞く教材があるのですが、それを聞いたときや資料を読んだとあとに変化が出ました。また定期的にいろいろな事件の被害者の方がここに来て話をしてくれるのですが、それを聞いたあとは……。かなり胸にくるものがあったようです」


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