2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年8月22日

 もし彼が単に一学者として個人の立場でコメントしているならば、「安倍氏の微妙な変化は中国側にも伝わっている」というような分を超えた勝手な断言はできるはずもない。中国政府の考えを代弁しているからこそ、劉氏は日本に向かってそのようなことを言えるのであろう。

 逆に言えば要するに、8月15日以後、公式の立場では日本を批判しなければならない中国政府はむしろこの劉氏の口を通じて、「安倍首相の“配慮”と“微妙な変化”はわれわれが受け止めているぞ」という本音のメッセージを日本側に伝えようとしているのである。つまりそれもまた、中国政府が日本との関係改善を意識して行ったメッセージ発信の一つであると理解してよいだろう。

TPPと経済減速

 このように、8月15日前後において、中国政府はさまざまな形で日本に対する関係改善のシグナルを送り続けていることは明らかである。問題は、彼らは一体何のために、どのような関係改善を日本に求めてきているのかである。

 これに関しては、筆者は発売中の雑誌『WEDGE』9月号に寄稿して詳しく論じている。結論としては、理由の一つはやはりTPP問題である。アメリカ・日本が中心となって進めているTPP経済圏の構築に対して、自分たちがこの環太平洋の一大経済圏から疎外されるのではないかと危惧する中国政府は、その対抗手段として日中韓FTA交渉を今後どうしても進めていきたい。そのための環境整備としては、やはり日本との関係改善に乗り出すしかない。

 加えて、自国の経済減速はすでに確実な流れとなっている中で、日本からの更なる投資、日本への輸出の更なる拡大は、中国にとってますます重要な意味をもってきている。このような状況下で中国はやはり、日本との対立関係をある程度緩和させたい気持ちになっていることも理由の一つであろう。

経済重視の「限定的な関係改善」

 そして何よりも重要なことは、日本の安倍政権は参議院選にも勝って長期政権となるのが確実な見通しとなった以上、韓国にしてもあるいは中国にしても、安倍首相との首脳会談をいつまでも拒否するようなことは大変難しくなっている点である。


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