2024年4月26日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2013年8月30日

 今度は、陽性だった女性のうち、乳がんにかかっているのは1人ということが容易にわかる。したがって、この女性が乳がんである確率は10%と考えられる。検査で陽性と出たからといって、けっして悲観することはない。頭を冷やせば、むしろこの場合、大半は乳がんでないことが理解できるのである。

自分を守り、正当な選択をするための武器

 著者によると、「数字オンチ」は、情報を聞く側だけの問題ではない。情報を伝える側の医師やカウンセラーや法律家ですら、実はかなりの数字オンチであるというのだ。

 こうした専門家が統計的思考法を身につけていないばかりに、彼ら自身が誤った理解をしていることに気づかず、間違いを流布させている場合が少なくない。

 さらには、資金集めに利用したり、自分の治療法を売り込んだり、不安をあおったり、損失を利益に見せかけたりするために、意図して数字オンチを煙に巻く人々もいる。

 たとえば、医薬品や治療法などの効果を説明するのにも、三つの方法がある。絶対リスク減少率、相対リスク減少率、要治療数。

 それぞれの言葉の説明は、本書巻末に丁寧な用語解説が付されているので省かせていただくが、同じ実験結果でも、相対リスク減少率は絶対リスク減少率よりも「印象的」になる。「相対リスクのほうが絶対リスクより大きく、効果が実際よりも大きく見える」のである。こうした数字のマジックを利用しない手はない。

 知ってしまうと唖然とするような数字の誤解、誤謬、騙しのテクニックが、乳がん検診やエイズ・カウンセリング、DNA鑑定、はたまた、O・J・シンプソン裁判などの事例を通して、次々と暴かれていく。

 自分がいかに数字オンチだったかを思い知るのは痛みをともなうが、快感でもある。数字にだまされないための思考法を身につける動機にもなる。

 <子どもたちの世代は、多くの遺伝病検査を含めた新しいテクノロジーの世界で暮らすことになる。これらのテクノロジーが与えてくれる情報とテクノロジーの利用にまつわるリスクを――メリットとコストの両面で――理解する必要がある。現在、高校教育で統計的思考法を教えている国は、あってもごく少ない。>

 <生徒や学生、大学院生、一般市民、専門家に、どうやってリスクを見分けるかを教えることを目的に、教育キャンペーンを実施すべき時期が来ている。>

 そう唱える著者は、本書の最終章で、「どんな分野にもどんな学習段階にも応用できる教育プログラムのアウトライン」を示している。著者のいう「明晰な考え方」は、自分を守り、正当な選択をするための武器になるはずである。


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