2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2009年5月26日

 消費税率引き上げに熱心な財政再建派の与謝野経財相が、なぜ贈与税減税を首相に進言したのか。それは、高齢者が抱える余剰な貯蓄を、若い世代に移動するというもう一つの狙いがあったからだ。日本の個人金融資産1434兆円の半分以上は現預金だ。総務省の全国消費実態調査によると、金融資産の75%を60歳以上の世帯が抱え込んでいる。高齢者への金融資産の偏在は急速に進んでいるのが現状だ。

本当の意味は若者への富の再分配

 若い頃から積み上げてきた貯蓄に、退職金や親からの相続財産が上乗せされ、一方で子育てやローンの返済は終わり、支出は減る。50歳以上の世代が退職金や相続で得る資金は総額で40兆円にのぼる。かくして高齢者は、使うあてのない「余剰貯蓄」を持つようになる。

 総合研究開発機構(NIRA)は、こうした余剰貯蓄の総額は最大で179兆円、少なくとも100兆円にのぼると試算している。

 この資金はいずれ相続によって後世代に移るが、急速に高齢化が進んで、受け取る側も50歳を超えている。余剰貯蓄は放っておくと永久に高齢者世代にとどまり、消費に回らずに眠ってしまう可能性が高い。

 その一方で、一連の景気対策で国の財政は火の車だ。今年度の国債発行額は44兆円を超えると見られ、戦後初めて国債発行額が税収を上回る恐れもある。景気対策の財源をこれ以上借金に頼れば、国債が消化しきれなくなって長期金利が上昇し、逆に景気を冷やしかねない。運良く消化できたとしても、後世代に膨大な借金のツケが回される。

 余剰貯蓄を吐き出させ、消費性向が高い世代に移せば、膨大な消費刺激効果が期待できる。国の贈与税収は年間1100億円に過ぎず、減税による税収減の痛手はほとんどない。景気回復を早めることで、税収は差し引きで増え、かえって国の財政にプラスになるかもしれない。

 今の60歳以上の世代は、若い頃の負担は少なく、安定した年金給付を得られる「逃げ切り世代」でもある。これから重い負担にあえぐことになる世代に貯蓄を移すことは、世代間の公平にもつながる。

 だが、与謝野経財相がそんな自説を主張する余地はほとんどなかった。「金持ち」への妬みや羨望に根ざした批判を、理詰めで説き伏せるのは容易ではない。自民党税調は、世代間の資金移動の必要性を真剣に議論することなく、与謝野経財相の案を葬ってしまったのである。


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