不況を生き抜く管理会計

2009年8月19日

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田中靖浩 (たなか・やすひろ)

公認会計士

1963年生まれ。三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒。外資系コンサルティング会社などを経て独立開業。現在、田中公認会計士事務所所長。経営コンサルティングからセミナー、新聞・雑誌の連載などに幅広く活躍中。最近は落語家・講談師などとコラボによるライブイベントを展開中。日本公認会計士協会東京会・経営委員会委員長、経済産業省・財務管理人材育成システム開発事業審議委員、東京都立産業技術大学院大学「ものづくり経営人材育成講座」検討委員・講師などを歴任。著書は、『右脳でわかる!会計力トレーニング』、『経営がみえる会計』、『12日間速習プログラム決算書トレーニング』(以上日本経済新聞出版社)など多数。数点は海外にも翻訳出版されている。

 多くのフィットネスクラブでは、プ-ルや風呂・サウナまで用意している。このような水回り関係の設備・維持コストはきわめて大きい。それに加えて人件費。この巨大な固定費を「顧客単価(P)×顧客人数(Q)」で回収できるモデルをきちんとつくれない限り、ビジネスとしては成立しない。フィットネス大手2社では、価格競争によってコスト回収が難しくなってきているようだ。

 大手フィットネスクラブが増収減益に苦しむなか、女性専用のカーブスという小規模フィットネスが順調に業績を伸ばしている。カーブスの特徴はプールと風呂・シャワーを用意せず、トレーニングも30分で完結するようコンパクトに設計されていること。また出店もフランチャイズ形態を活用しており、出店も土地代が安い郊外を中心にしている。

 大手フィットネス最大の弱点である「固定費の大きさ」を克服すべく、徹底的に「固定費の小さい」モデルを構築することに成功している。低価格で成功するために、単なる値下げでなく「固定費を中心にした経営モデルそのもの」を軽量化したわけだ。

こだわり路線のトータル・ワークアウト

 前回、ホテル業界で中途半端なホテルがダメになる一方、「こだわり」の高級ホテルと「機能重視」のビジネスホテルの好調ぶりをお伝えした。どうやらフィットネスクラブでも同じような現象が起こり始めたらしい。これまでのやり方を変えることなく「値下げ」で客を呼ぼうとしている大手が減益の一方、小さな経営モデルで「機能重視」の低価格カーブスが業績好調だ。

 反対に「こだわり」の高級路線で成功しているフィットネスクラブを紹介することにしよう。現在、私が通っているトータル・ワークアウトというジムだ。都内では渋谷と六本木という一等地に出店している。このジムの大きな特徴は基本的に「個人トレーナー」が指導するという点にある。私のように、真剣に「鍛えるぞ!」と決意した人間にとって、この個人トレーナーの存在はきわめてありがたい。まず個人トレーナーと知り合いになれば厳しいトレーニングも続ける気になる。しかも自分ではわからないトレーニングの目的や、マシンの正しい使い方、食事の方法まで教えてもらえる。

 立地もよく、個人トレーナーの指導が付くとなれば、会費は大手のフィットネスより高めになる。しかし身体のことを真剣に考え始めた人間は「高くてもいいから、きちんと鍛えたい」と思うのだ。将来の健康を手に入れるための投資だと思えば高いとは思わない。こうした健康を真剣に考える私のような客は今後も増えていくだろう。

 ポイントはその真剣な客を満足させられる体制がジムに用意できるかどうかだ。高級ホテルと同じく「こだわり」をかたちにして客に納得してもらうのは、それほど簡単ではない。設備だけでなく個人トレーナーの資質など課題は多い。現在、私は客としてトータル・ワークアウトには満足している。私のように納得してカネを払う人間が増えてくれば高価格モデルが成立する。顧客数は大手より少なくても、顧客の満足度が高く、そして利益という質を伴う経営モデルがつくれるというわけだ。

高価格に必要な「こだわり」とは?

 トータル・ワークアウトのシニアディレクターの池澤智さんに話を聞く機会があった。興味深い話をいろいろ伺ったなかで印象に残った一言がある。「自分のためにトレーニングの時間をきちんと使える人に来て欲しい。こちらはそのために最大限の努力をしたい」どれだけ忙しいビジネスマンであっても、時間をやりくりすれば1時間はつくれる。その貴重な時間を費やしてトレーニングに訪れるお客さんに対して、緊張感をもって対応したいというこだわり。

 ・・・・これはすべての高価格ビジネスに通じる「こだわり」の出発点ではないだろうか?

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