2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年9月24日

 「しかし首相になった今からは、鳩山氏は中国政策を一体どう具体化していくのか、彼の〝友愛外交〟は今後の日中関係に一体どのような効果をもたらすのか。それもまた、見守っていくべきであろう」

 この記事の締めくくりの部分で現しているのはおそらく、「野党時代の鳩山氏は聞こえの良いことを何でも口にしていたが、首相となった今、果たしてそれを実現してくれるのか」とのかすかな不安ではないのか。

 つまり、鳩山政権の誕生に多大な期待を寄せながらも、場合によってはその期待が裏切られるのではないかとの不安もあるのが中国側の本音のようだが、実はそれは、去る8月30日の総選挙で民主党が大勝してから、新華社を中心とする中国の国内メディアが示してきた一貫した態度である。

 たとえば、総選挙の翌日に新華社が配信した関連記事がそのいい例である。記事は来年の参議院選挙に注目して、「民主党が参院選に勝利し、政権の基盤を固めるためには、少なくとも来年の夏までは内政に専念するはずだ。その間、外交政策を大きく変更するようなことはないだろうから、日中関係は基本的には変わらない」との見解を示しながらも、「自由や友愛など西側諸国の『自由と民主主義の価値観』を標榜する民主党政権は、『人権』の旗印を掲げて中国の内政に干渉してくる可能性があるのではないのか」との民主党の対中姿勢にたいする警戒心を示している。その理由として挙げられたのは次の2点である。

◇鳩山首相はかつてダライ・ラマと会見したことがあり、小沢一郎氏も去年のチベット騒乱で中国政府を批判したことがある。
◇自民党政権よりも、民主党政権はポピュリズム的傾向があるから、仮に日中
国民の間で何らかの事件によって感情的対立が生じた時、民主党は日本の民衆
の感情に迎合して日中関係を損なう可能性もある。

 この2つの理由から、鳩山政権の対中姿勢を慎重に見守っていかなければならない、と新華社の記事は結論づけている。しかし、誰の目から見ても「親中」的な姿勢を明確にしているはずの民主党にたいして、中国政府の考えと意向を代弁している新華社は、こじつけとも思われるような上述の2つの理由をもって「警戒心」を露にしているのはかなり意外に思われる。だが、このような姿勢をわざと示した背景には、おそらく次のような理由があると考えられる。

◇あまりにも露骨に民主党政権の誕生を歓迎していると、それが日本の保守層らの民主党批判、とくに民主党の対中姿勢にたいする批判を浴び、逆に民主党の「親中」的姿勢を後退させる恐れがある。
◇あまりにも民主党政権の対中姿勢を褒めすぎると、それが逆に民主党の「慢心」を生じさせ、日中関係における中国の立場を弱めてしまう恐れがある。
◇史上初の民主党政権の誕生に対して、中国政府や中国の専門家たちは本心ではやはり多少の不安を感じていて、今後の民主党政権の実際の対中政策を見極めていこうと考えている。

世界一老獪な中国の姿勢をどう見ておくべきか

 いずれにしても、外交戦術上では世界一老獪な中国政府はそう簡単に相手を信用しないのがむしろ当たり前のことだから、おそらく中国政府はこれから、民主党政権の出方を見て、その対中姿勢・国際戦略の本意を見極めていくつもりであろう。

 冒頭で紹介した「鳩山先生に1日も早く会いたい」との温首相のメーセッジの真意もこれでお分かりだろうか? 要するに、温首相はまず直接鳩山首相と会って、その腹の内を探りたいと考えていると思われる。それはもちろん、鳩山首相と鳩山政権の「対中友愛度」を鑑定するつもりでもある。


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