2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2015年12月4日


郵政民営化は、本来、財政投融資制度改革の一部であり、明治以来の大きすぎる官製金融をどう縮小させていくかという議論だった。三井住友銀行出身で、日本郵政やゆうちょ銀の役員を務め、郵政改革の内実をよく知る宇野輝・京都大学特任教授は、「上場が先延ばしされている商工中金と日本政策投資銀行(DBJ)の民営化と郵政民営化は本来セットだ。融資機能のないゆうちょ銀と、預金機能のないDBJ・商工中金を合併し、地域分割。地方向けの金融機関として民間金融機関とイコールフッティングで競争させていくのが、あるべき“完全”民営化だ」。

しかし、こういう血の出そうな改革など誰も望んではいない。

復興財源4兆円ありき

 今回の上場の発端は、13年初めに安倍晋三政権が復興財源として郵政上場益4兆円を充てこんだこと。そのために1回1.4兆円の売り出しを3回行う、安定消化が必須だから個人向けで高い配当性向と、全て逆の順序で決まっていった。

 「金融リテラシーの低そうな国民に対する体のよい復興増税」と言えば口が悪すぎるだろうか。かくして、郵政民営化の大義は忘れ去られ、郵政グループの企業価値をどう向上させるのかという検討は後回しとなった。

上場から1カ月経った12月3日、日本郵政は最高値の1946円を付けた。この日はちょうど、上場翌日の11月5日から日本郵政が実施してきた自社株買いが、今回計画の上限の7000億円超に達し、買い付けを終了した日。財務省は3日朝、東証、東証立会外取引でほぼ同額の日本郵政株を売却している。

財務省が保有しているのは日本郵政の株であり、ゆうちょ銀とかんぽ生命の株は日本郵政が持っている。3社上場で財務省に直接入るのは日本郵政株の売却益約7000億円だけ。ゆうちょ銀とかんぽ生命の株式売却益7000億円はいったん日本郵政に入ってしまうため、自社株買いのスキームを用いて財務省に資金を移動させていることになる。

日本郵政は今年2月、郵便事業会社の日本郵便が豪物流大手トール社を約6200億円で買収することを発表したが、郵便会社にそんな資金はない。ゆうちょ銀に自社株買いをさせて日本郵政に資金を移し、さらに日本郵便の増資を通じて日本郵便に資金を移動させている。このスキームを応用したわけだ。

2回目、3回目の売り出しでも同じ自社株買いスキームを用いて国は日本郵政グループから4兆円を吸い上げるわけだが、大株主の政府と今回日本郵政の株を買った少数株主の間に対立は起きないのだろうか。


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