オトナの教養 週末の一冊

2016年5月1日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 目下、民主・共和両党で候補者選びが進んでいるアメリカの大統領選挙をおもしろくしているのは、まぎれもなくドナルド・トランプ氏の言動である。ごく普通の人々にとってアメリカの大統領選挙というのは従来、仕組みが複雑でわかりにくいものであったはずだが、トランプ氏はそれを「劇場」にしてしまった。トランプ氏の言動に注目することで、大統領選挙に関心が集まり、いつのまにか多くの人にその仕組みまでも理解させてしまっている”功績”は大きい。

 既に日本でも繰り返し報道されているように、トランプ氏の暴言はあげるときりがない。メキシコとの間に巨大な壁をつくるとか、イスラム教徒のアメリカ入国を拒否すべきだなど、本書の巻末にトランプ語録が「付録」でついているが、数々の暴言を集めると、それだけで一つ章ができるほどの分量である。長年アメリカ政治をウオッチしてきた著者が、そうしたトランプ氏の動きを丹念に追いながら現代アメリカの姿を深く読み解いた力作が本書である。

トランプが大統領になったらどうしよう?

 米共和党もトランプ氏の扱いに困っているはずだ。米国内の報道や各種解説を見ても、よもやの快進撃が続いているために、どう対応していいのかわからなくなっているような印象を受ける。「トランプ氏が大統領になったらどうしよう」というのは当初は冗談みたいな話だったが、先般、大票田のニューヨーク予備選で勝利したことで、大まじめな心配事に変わったのである。メディアも7月の全国大会に向けて何か混乱が起こるのではないかと警戒している。

 一連のトランプ旋風に関する著者の分析には注目させられる。なぜトランプ氏に人気が集まるのか。著者はアメリカでの人口構成の変化に注目している。

 〈2000年前半まではアメリカ人口の白人率は4分の3を超えていたが、今は55%ほどである。中略 白人が多数派の場所を明け渡すカウントダウンが始まっている〉

 〈乱立した候補者のほとんどが何かしらマイノリティの要素を持っていた。中略 従来のマジョリティである白人プロテスタントはトランプしかいない。しかもトランプは古き良き時代のアメリカン・ドリームの達成者である〉

 〈多様化した社会にストレスをため、「昔は良かった」と考える共和党支持の白人がトランプ支持に傾いたのである〉

 著者は以上のように指摘する。なるほどと納得できる解説である。著者による政策比較で、トランプ氏は外交安保で孤立主義を唱え、経済政策では穏健派であり社会政策でも穏健派と分類する。派手な言動は別にして、政策的な主張は評価できる点がないわけではない。

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