2024年4月27日(土)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年2月12日

 もちろん、法人税引き下げには抵抗もあろう。とりわけ、企業減税が国民への増税で調整されるならば、なおさらであろう。しかし、企業が雇用と賃金を支える最大の主体であることを忘れてはならない。また、企業に厳しく当たって国民の稼ぐ機会を逸失させても誰の得にもならない。

 それでも、国民負担の下で企業だけが儲けることを懸念するならば、企業活力を増す政策がきちんと雇用と賃金にも跳ね返る枠組みも同時に作っていけばよい。たとえば、最低賃金の引き上げや同一労働同一賃金の枠組みであり、これらの施策は「新成長戦略」に盛り込まれている。

 アジアの中で日本市場だけが停滞していることに対しては、内外市場を一体化することが海外の成長市場を取り込む成長戦略となる。これには、「新成長戦略」にも掲げられているが、ヒト、モノ、カネの移動を自由化させて内外経済の連携を深めるEPA(経済連携協定)を主要な国と結ぶことが第一歩だ。同時に、海外と大きく異なる規制などは共通化し、活力ある海外企業がより多く日本市場に参入するよう促すことも日本経済を活性化させる。

 ちなみに、日本への海外企業の対内直接投資(GDP比)は世界でも最下位グループに属する。国連(UNCTAD)が集計する183カ国・地域のうち日本は2008年実績で第162位、いままでの対内直接投資累計額の対GDP比では第178位とまことに振るわない。

 日本は海外企業が進出しにくい国だということは、いままでも言われてきた。しかし、1億3000万人近い人口を有し、質が高く、巨大な市場が魅力的でないはずはない。国内企業がすでに激烈な競争をしていて海外企業が国内参入できないのであれば、このような競争的な国内企業こそ海外展開しない方がおかしい。言葉や慣習の違いなどから海外企業に参入努力が必要な部分はあっても、本当にグローバルスタンダードに沿った形で内外市場が一体化されれば、国内市場は今よりも活性化して国内に雇用が生まれると同時に日本企業の刺激にもなろう。

少子高齢化は大きな成長フロンティアだ

 少子高齢化も大きな成長フロンティアだ。政府が「コンクリートから人に投資をシフトする」ことも大きな追い風だが、そもそも少子化対策は大きな成長戦略である。それは、前回にも書いたが、抜本的な少子化対策が働く女性の増加と出生率の回復を通じて経済を大きく下支えする可能性につながるからだ。また、いままでビジネスの対象とならなかった家庭内サービスを巨大な成長市場へと変貌させることにもなる。

 しかも、出産を機に、働く女性の7割近くが退職することで、日本には十分に使いきれていない貴重な女性の労働力が百万人単位で存在している。働く女性が増えることや元気な高齢者が働き続けることは労働人口の減少を当面抑制するのみならず、消費力の拡大にもつながって経済活力を支える。

 一方、高齢者について言えば、社会保障費の増加を主として負担の側面から捉え、厳しさを増す医療・介護現場や病院経営ばかりが浮き彫りになる現実は、制度や運営の仕方に課題がある証拠だろう。実は、高齢者ほど消費をするとの計算ができる。高齢化で食料品などへの支出が減る以上に医療費が増えていくからだが、これは本来であれば大きなビジネスチャンスである。「新成長戦略」で医療・介護などを成長産業化するとしているが、もっともな視点である。ぜひ、バランスは取りながらも、規制を見直し、民間企業の創意工夫が生きる形で医療・福祉産業を発展させることが重要だ。


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