2024年4月27日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年4月19日

 “Look here. Look at these hills,” he said as he pointed toward the mountains looming over the town, whose lower slopes were strewn with countless rocks and boulders. “There has been far too much dying in these hills. Every rock, every boulder that you see before you is one of my mujahedeen, shahids, martyrs, who sacrificed their lives fighting the Russians and the Taliban. Now we must make their sacrifice worthwhile.”
  He turned to me with a look of fierce determination.  “ We must turn these stones into schools.” (p92)

 「『ここをごらん。この山々をみなさい』彼はそう言って、町を囲む山々を指さしました。その山裾はおびただしい岩で覆われていました。『この山ではあまりにも多くの命が失われた。あなたがいま目にしている岩のひとつひとつに、ロシアやタリバンと闘うことに命を捧げたムジャヒディン、殉教者たちの魂が宿っているのだ。彼らが捧げた犠牲を生かさなければならない』
  彼は強い決意のこもった目で私をみました。『これらの石から学校をつくらなければならないのだ』」

 子どもたちに教育の機会を与えることが、アフガニスタンなどの民主化や平和の実現につながるという信念が、筆者の学校建設運動の背景にある。政府の助けは受けずに、イスラム文化圏の危険な地域で学校建設を続ける筆者の活動はやがて、現地のテロ活動に頭を悩ませる米軍関係者の関心も集める。国防総省に2002年暮れに呼ばれてスピーチをした際の発言を次のように紹介する。

 “I’m no military expert, and these figures might not be exactly right,” I said. “But as best I can tell, we’ve launched 114 Tomahawk cruise missiles into Afghanistan so far. Now take the cost of one of those missiles, tipped with a Raytheon guidance system, which I think I think is about $840,000. For that much money, you could build dozens of schools that could provide tens of thousands of students with a balanced, nonextremist education over the course of a generation. Which would you think will make us more secure?”(p251)

 「『わたしは軍事の専門家ではないので、今から言う数字は正しくないかもしれません』と私は言いました。『しかし、なんとか見積もってみると、これまで、わが国はアフガニスタンに114発のトマホーク巡航ミサイルを撃ち込んでいます。これらミサイルのコストを考えると、レイトン社の誘導システム付きでミサイル1発当たり、84万ドルすると思います。それだけのお金があれば、何十校もの学校をつくれますし、何万人もの生徒たちにバランスのとれた過激主義ではない教育を、数十年にわたって提供できます。どちらの方が、わが国をより安全にすると思いますか』」

 アフガニスタンでアメリカ軍が展開する対テロ戦争は今や9年目に突入しているにもかかわらず、現地の治安は依然としてよくならない。アメリカ軍の撤退戦略もまだ不明で、アメリカ国民の間にはアフガニスタンでの対テロ戦争への嫌気が高まっている。そんな中、たった一人で立ち上がり、NGO活動でアフガンやパキスタンで活躍する筆者の姿は、アメリカ国民にとってはまさにアメリカ軍に代わるヒーローとして映るのかもしれない。軍事力で強引に押すだけのアメリカの外交戦略の限界に気づき始めたアメリカ人には、筆者の活動はソフトパワー外交の新たな選択肢にもみえるはずだ。

 筆者のNGOには大きな特徴がある。アフガニスタンやパキスタンのなかでも、大きな都市ではなく、冬には雪で道が閉ざされるような僻地にあえて学校を建設するのだ。そこではアメリカ人であることは何の役にも立たないし、力で押すような交渉も許されない。僻地の村の長老たちと話し合いをもち、現地の人々の協力を得ることが最優先なのだ。

 しかし、特にアフガニスタンはさまざまな民族が入り乱れる複雑で危険な国だ。一民間人に過ぎない筆者はなぜ、そんな過酷な環境のなかでNGO活動を続けられるのだろうか。現地で出会ったさまざまな出来事を綴っている本書を読めばその秘密も分かるし興味も尽きない。ひとことで言えば、筆者はあくまでも現地の人々をアシスタントとして活用している点に秘密がある。

 現地でNGOの会計を担当するのは元タリバンで帳簿を扱っていた男だし、アフガニスタンやパキスタン国内を移動する際に、行動を共にするアシスタントは元奇襲部隊でゲリラ戦を経験した手に障害を持つ男、といった具合だ。専門のボディーガードなどは連れていかない。


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