風光明媚な地に建つ温泉旅館は、絶好のワークスペース
コロナ禍以前から、日本の観光地は様々な課題を抱えていた。かつては隆盛を極めた団体旅行は右肩下がり、連休などに旅行客が集中する需要の偏在も解決できないまま。そんな中、これらの課題を、コロナ禍によって普及したテレワーク需要を取り込むことで克服しようとする旅館が生まれてきた。団体旅行用にたくさん用意していた客室の一部を賃貸オフィスに改装し、そこに企業を誘致することで曜日に左右されない収益を得る―。もともと旅館は風光明媚な地に建ち、温泉などのリラクゼーション施設も整っているので、そのアセットを活用して、都心のオフィスでは体験できないワークスタイルを提案しようというのだ。
仕事の後は、温泉入り放題、「サ活」にも対応
愛知県蒲郡温泉郷にある、西浦温泉の旬景浪漫銀波荘と三谷温泉の平野屋でも、客室の一部をサテライトオフィスに改装し、企業等に貸し出す事業を始めた。どちらも、オフィスの賃貸料に温泉やサウナなどの利用料も含んでいる。
銀波荘では、三河湾の絶景を望める5つのオフィスを用意。目の前にビーチが広がり、散策で一息入れられるのが嬉しい。そのビーチに面したカフェは、以前は大浴場だったスペース。ワークスペースを充実させ、従来の旅館とは一線を画するカジュアルな空間だ。安藤壽子氏(専務取締役)は「1泊2食付きの従来の温泉旅館のビジネスモデルとは異なる、新たなチャレンジです」と話す。
平野屋の特徴は、自身もサウナーだという平野寛幸氏(代表取締役社長)がこだわり抜いたサウナ。「仕事が終わった後にサウナで心身を整え、あすの仕事につなげていただく。それも、最高のサウナで」というだけあって、共用サウナだけでなく、なんと客室をまるごとサウナに改装した貸切サウナ(料金別途)も用意。普通のオフィスでは考えられないワークスタイルを提案している。
観光地は、ビジネスチャンスの宝庫
温泉旅館内の賃貸オフィスに入居して働くワーカーにとって重要なのは、そこで働く理由。そこで注目したいのは、観光地周辺の地場産業だ。もともと観光は、農林水産業はもとより、幅広い地場産業と結び付いている。
蒲郡の場合、商標登録もされている蒲郡みかんの栽培が盛ん。みかん狩りは蒲郡を訪れる観光客に人気の体験コンテンツのひとつだ。現在、地元の観光協会を中心に、改めてその魅力を再評価し、蒲郡みかんを活用した「選ばれるまち蒲郡」を目指した取り組みも進展している。
また、三河湾沖で獲れるアカムツやニギス、メヒカリなどを狙った漁業も盛ん。それらは、大学の分析により、うまみ成分や健康成分が他地域の魚より高いという折り紙付きだ。この化学的な分析を行うことを提案した、山本水産の山本大輔氏(専務取締役)は、「メヒカリは唐揚げ、アカムツは刺身でも煮つけにしても美味しい」と太鼓判を押す。市内の飲食店や旅館、海産物店などで提供され、観光客を喜ばせている。
しかし、各地の地場産業は、後継者不足やeコマース等のデジタル化の遅れなど、山積する課題に直面している。「課題のあるところにビジネスチャンスあり」。その意味で、観光地はビジネスチャンスの宝庫とも言える。
スタートアップとの連携に期待
こういった地域課題の解決役として期待されているのが、独創的なテクノロジーと身軽なフットワークを持つスタートアップ。地場産品とスタートアップのAI技術等を掛け合わせることで、新たな販売開拓や生産効率の向上、効果的なPRなどの変革が起こるかもしれない。
地場産業との結びつきが強い観光地にスタートアップが入ることで観光地は、クリエイティブかつイノベーティブなビジネスフィールドになる可能性を秘めている。