2024年7月20日(土)

JR東海「FUN+TECH LABO」

2024年7月20日

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リニア中央新幹線沿線都市の価値向上を目指してJR東海が始めた「FUN+TECH LABO」(以下、Fラボ)。神奈川県、相模原市およびJR東海で締結した「イノベーションの創出促進に係る連携協力協定」に基づき、JR東海が神奈川県相模原市に設置した拠点を軸に、Fラボはどうイノベーション創出を促進するのか。イノベーション政策やディープテックに詳しい研究者、政策担当者に超電導リニア(以下、リニア)に乗車いただき、その感想を含めて語ってもらいました。
渡部俊也 Toshiya Watanabe
東京大学未来ビジョン研究センター教授
専門はイノベーション政策。1984年東京工業大学無機材料工学専攻修士課程修了。民間企業を経て、94年同大学無機材料工学専攻博士課程修了(工学博士)。2001年より現職。東京大学副学長を務める。

渡部 リニアに乗車して、初めて時速500㌔の移動を体感しましたが、まるでテレポーテーションしているような感覚でした。

須賀 乗車前は揺れが大きいだろうと思い、今日はヒールの低い靴で来ました。実際はカーブの瞬間でも立っていることにストレスなく、快適な乗り心地であることにとても驚きました。

加藤 日本独自の技術であり、東京〜大阪間の都市間移動の時間を短縮するリニアは、開業する前の現在においても、日本をさらに豊かにするための挑戦を行う契機となります。

 

少子高齢化社会で鉄道会社が担う「使命」

須賀千鶴 Chizuru Suga
経済産業省情報経済課長
2003年東京大学法学部卒業。同年、経済産業省に入省し、17 年初代商務・サービスグループ政策企画委員、18年初代世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長等を経て21年より現職。

須賀 日本が抱える最大の社会課題は少子高齢化であり、地域のインフラを持続可能にして、国民の豊かな生活を維持していくのは相当な難題です。産官学一体でイノベーションを創出して乗り越えていかなければなりません。

滝澤 鉄道会社の事業継続性は沿線地域の持続可能性に左右されることから、少子高齢化社会が進んでも、リニア等の鉄道輸送を軸として沿線自治体と連携し、より豊かな地域づくりに貢献することが当社の使命です。

 

武田一哉 Kazuya Takeda
名古屋大学未来社会創造機構教授
専門は情報通信工学。1993年名古屋大学博士(工学)。民間企業を経て95 年名古屋大学工学部助教授、2003年名古屋大学大学院・情報科学研究科・教授等を経て14年より現職。20年より名古屋大学副総長。

武田 その一つの解は「データ(情報)」と「テクノロジー」を活用すること、つまりDXであることは間違いありません。この数年の半導体の急激な進化で現実世界から取得できるデータ量が著しく大きくなっています。自動運転などのロボットを活用したり、テクノロジーを用いて人間の能力を拡張したりしていくことが必須です。

須賀 社会基盤のDXに個社で取り組んでいくには限界があり、国はデジタルライフライン全国総合整備計画(以下、デジタル全総)を策定中です。デジタルライフラインとは、実世界のインフラをデジタル化することによって人手に頼らなくても必要なサービスが必要な場所・タイミングに行き渡る仕組みを整備するという概念です。

加藤真平 Shinpei Kato
ティアフォー代表取締役社長CEO兼CTO
2008 年慶應義塾大学博士(工学)。自動運転ソフトウェア「Autoware」を開発し、オープンソースとして公開。15年にティアフォーを創業。東京大学大学院情報理工学系研究科特任准教授を兼務。

加藤 デジタル全総の中に、「モビリティハブ」の整備があります。これは、ドローンや自動運転車といったモビリティがヒト・モノの乗り換えや積み替えを行ったり、充電や駐車を行ったりする集約的な拠点をまちの中に配置することで、防災拠点や交流の場としても活用するというものです。もちろん、リニア中央新幹線の駅周辺はモビリティハブの有力な候補地です。

 

 

 

政策は整いつつある 後はどう「やりきる」か

超電導リニアは「ヒト、モノ」だけでなく「情報」も運ぶかもしれない
WATARU SATO

渡部 大切なことは、デジタル全総のように、日本社会に適した政策をつくるだけでなく、それを「やりきる」ためのエコシステムやコミュニティづくりを行うことです。エコシステムは、お金や人、知識や文化といったさまざまな「キャピタル」でつながっていくシステムです。ただ、エコシステムは社会の要請に応じて構成員の新陳代謝を促す側面もあるので、エコシステムという概念に加えて、特定の目的に向かって協働するコミュニティづくりも必要です。

須賀 そのためには市民の力が不可欠ですが、欧米と比べると日本はシビルソサエティ(企業や政府、家族以外で公共の役に立とうとするさまざまな団体や組織)が貧弱だといわれています。一方で各地域に目を向けると「地元のために汗をかきたい」と思う多くの人に出会えます。Fラボがそうした人々が集い、議論できる健全な「場」としても機能すると良いと思います。

渡部 Fラボには「シチズンドリブン」を実践していくことが求められます。イノベーションを創出し、それを地域に実装していくには(1)先端技術等を用いたテクノロジードリブン、(2)SDGs達成などを目指したミッションドリブン、(3)市民からの評価やニーズを拠り所にするシチズンドリブン、という3つのドライバーが必要です。

滝澤一博 Kazuhiro Takizawa
JR東海事業推進本部担当部長
1993年JR東海入社。総合企画本部経営管理部担当課長、総務部株式課長、JR東海高島屋取締役総合企画部長、中央新幹線建設部次長等を経て現職。新規事業開発やDX推進、沿線都市の価値向上等を担当。

滝澤 われわれはシチズンドリブンの実践、「テクノロジーを楽しく体験してイノベーション創出を促す」という思いを込めて、テクノロジーに楽しいを加えるという意味の「FUN+TECH LABO」という取り組みを始めました。Fラボは地域課題を解決するだけでなく、地域に新たな価値を提示して魅力を高めるための議論ができる「場」としても役立ちたいです。

渡部 各地域も、社会にどのような価値を提供できるかを考える必要があります。地域活性化、なかでも産業振興というと製造業誘致が頭に浮かびがちですが、アニメや家庭用ゲームなどのコンテンツ産業の海外市場規模は4兆円を超えており、鉄鋼や半導体等製造装置などと変わりません。コンテンツ産業は原価に縛られず大きな付加価値を生む可能性があり、地域活性化を考えるうえで重要な観点の一つです。

滝澤 沿線地域の方々と話していて良く感じるのが、その方自身が地域の持つ魅力に気づいていないことです。

渡部 地域活性化を目指すうえで陥りがちなのが、自身が魅力だと思っているコンテンツに固執してしまい、シーズアウトやプロダクトアウトに陥ってしまうことです。そうではなく、ウェルビーイング(人々の多様な幸せ)につながるかなど、マーケットインの発想で考えなければなりません。

武田 Fラボの活動を通して生まれたイノベーションをしっかりと沿線各地に展開していくことが必要です。そのためには「情報の移動」が不可欠であり、リニア中央新幹線が開通すればヒトだけでなく、モノ、ひいては情報通信の仕組みで送り切れない情報を物理的な記録媒体で運ぶことにも使われるでしょう。

滝澤 東京〜大阪の地域間の「イノベーション格差」の解消につなげ、ひいては日本社会全体の活性化につなげる。Fラボは、ウェルビーイングな地域づくりに貢献していきたいです。