2024年4月27日(土)

古希バックパッカー海外放浪記

2017年8月13日

ハンサム中尉殿のフレンドリーな広報的対応

 7月8日。北インドのキナウル渓谷地方のナコという湖の周囲に村落が広がる風光明媚な小村に投宿。夕刻、揃いのユニフォームとゼッケンをつけたマウンテンバイクに乗った青年たちが続々と到着した。総勢150人くらいであろうか。トラックやジープの伴走車が先に到着していて村の運動場にテントを設営して食事の用意を始めている。

BRO(陸軍工兵隊の国境道路建設組織)が設置した海抜3200メートルに位置する村外れのヘリパッド

 私はナコに来る途中で合流した途上国開発論を専攻するドイツ女子カタリーナ、ヨガのインストラクターのロシア女子エレーナと一緒にマウンテンバイクの選手たちを眺めていた。

 到着する選手たちを見守っていた制服が似合うハンサムな青年士官に話を聞くと陸軍の訓練の一環として一週間で山岳地帯を走破する自転車競技であるという。カタリーナとイリーナは興味津々で青年士官を質問攻めにした。

 彼は広報官のように丁寧にソフトに質問に回答。曰く、インド陸軍では15歳から士官学校に入り卒業後任官。彼は現在25歳で階級は中尉。このバイクツアーの責任者として引率している。

 所属部隊は中国国境近くの最前線の基地に勤務。隊員の士気は高く4000~5000メートルの過酷な山岳地帯でのバイクツアーでも一人の落伍者もいない。

中国国境の手前50キロ付近に展開されている国境警備部隊の補給基地の一つ

 基地では夕食後の自由時間に映画上映がある。ハリウッド映画もあるが比較的に多いのがソ連・ロシアの映画。ソ連時代の映画は第二次大戦や冷戦時代の軍隊・兵士の姿がリアルに描かれており単なるプロパガンダ映画を超える内容であり教育的価値がある。

 インド陸軍の喫緊の課題は装備の近代化である。独立後は友好関係にあったソ連からソ連製兵器を導入した。現在でもミグ、スホイという戦闘機からライフル銃に至るまでロシア製またはロシアのライセンス生産である。今後は米国の最新鋭兵器も導入して中国やパキスタンに対抗してゆく方針である・・・等々きれいな英語で金髪女子の好奇心に応えていた。

 青年士官の見事なプレゼンを聞いてなぜインド軍が国民に敬愛されているのか得心した。

若手士官が先生? 僻地教育を担う陸軍基地小学校

インド国軍のキャッチフレーズ「ネバー・ギブアップ」が前線基地の上に掲げられている

 7月28日。レーの町から10時間近く四輪駆動車で中印停戦ラインに跨るパンゴン湖まで5000メートルの峠を越えて移動。高度4000メートルを超える渓谷を走っていると小さな村落の隣に陸軍の基地が見えた。

 兵舎の一角の屋根に「Army Primary School」とペンキで書かれていた。ドライバーに聞くと近隣に小学校がないので基地司令官が子供たちのために兵舎を利用して小学校を設けたという。兵員輸送車で子供たちの送り迎えもしているという。

インドの僻地医療を支える陸軍

 8月16日。インド最北端のラダック地方はインダス河の源流が流れる山岳地帯であり、中国・パキスタン国境に近い軍事的緊張地域でもある。

 ラダック地方の中心であるレーの町からローカルバスで6時間かけて有名なチベット仏教僧院アルチ・チョゴスル・ゴンパのあるアルチ村に到着。

インド陸軍「夏季巡回診療」の告知。アルチ村の診療キャンプまで軍用トラックが送迎する

 村の雑貨屋の掲示板に「陸軍医療キャンプ」(Army Medical Camp)と書かれたポスターが貼られていた。8月末に一週間村の集会所で陸軍の医療チームが夏季巡回診療を実施すると告知されていた。

 宿の主人に聞くとラダック地方の山間部では常設の診療所はなく年に数回の陸軍医療チームの巡回診療を住民は心待ちにしているとのこと。また山岳部では村外れに小さなヘリポートが設けられているが急患が発生すると最寄りの陸軍基地からヘリコプターが派遣されて都市部の施設の整った病院まで緊急輸送するという。

インド最北ラダック地方の中心の町レーの遠景

 軍隊の実態を知るにつけ国民がインド国軍を誇りに思うのは自然な感情なのであろうと理解できた。

⇒第3回に続く

  
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