世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月1日

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 パキスタンでは未だ首相がその任期を全うしたことがありません。パキスタンの元駐米大使ハッカニーにいわせれば、「かつて首相が選挙民によって更迭されたことはない、更迭されたのは裁判官、将軍、官僚あるいは暗殺者によってのみである」となります。今回は裁判官によって追放されることとなりました。

 シャリフ一族は、パナマ・ペーパーが暴露したシャリフの子供達が保有する4軒のフラットは合法的な資産であることを主張し、その証拠として2006年に作成されたとする文書を提出しましたが、その文書が当時はなかった筈のコンピューター・フォントで作成されていたことが判明し、偽造文書と認定されるということがありました。この問題に焦点が当たったため、シャリフは腐敗の廉で不適格とされたと思われていますが、実際は、UAE所在の企業から得たとされる月額3000ドルの給与を報告しなかった、即ち、シャリフは「正直」と「信頼性」という憲法が要求する資質(パキスタンの政治家には高いハードルかも知れない)を欠いたという技術的理由で不適格とされたものです。腐敗の如何は今後の問題らしいです。

 シャリフを追放した司法の役割については、腐敗と専横がはびこる状況の中で責任を問うたものだとして一定の評価をする見方もありますが、この司法の役割には懐疑的な見方の方が強いように思われます。「法の支配」の衣をまとってはいますが、民主主義にとっての打撃には違いありません。司法の役割をいうには権力闘争の匂いが強いです。イムラン・カーンはシャリフ追い落としの急先鋒で裁判所にも働きかけて来ました。彼は次の標的はザルダリだと宣言しています。

 後ろに軍の影もちらつきます。最高裁判所は問題の調査のために6名からなる調査チームを組織しましたが、うち2名は軍の情報機関が指名した陸軍士官だったといいます。最高裁判所が軍の暗黙の了解を得ることなく首相を追放する決定を出し得るとは思えないという憶測もあります。元来、シャリフは対インド政策、対アフガン政策などとの関係で軍とは折合いが悪かったといわれます。

 この論説も司法の役割には懐疑的であるように読めます。司法によって「アウゲイアス王の牛小屋」の清掃のように、主要な政治家が一掃され、来年の選挙には姿を消すかも知れないと述べています。そういうわけで、パキスタンは広範な混乱に陥ると見ているようです。

 論説の最後の文章は、混乱に遭遇するかも知れないが、政治家の腐敗の問題の処理が司法の手に委ねられている限りは、長期的には良いこともあるかも知れないといいつつ、同時に、混乱に乗ずる軍の動向に強い懸念を表明したものでしょう。この論説の表題には「パキスタンは混乱を何とか凌ぐ」とあります。混乱が待ち受けているが、パキスタンは不安定と混乱には慣れており、何とか克服するだろうといいたいのかも知れません。

  
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