2024年4月24日(水)

公立中学が挑む教育改革

2017年11月1日

外部を巻き込む「オープンイノベーション」で教育現場を変える

 自らの意志を持って社会に出ていく人材を育てるため、麹町中学校では年間を通してさまざまなカリキュラムを用意している。その1つが、現実社会と連動しながら生きる力を育む全国規模のプログラム「クエストエデュケーション」への参加だ。

 クエストエデュケーションでは、2年生が1年間の企業インターンを経験する。NTTドコモやクレディセゾンといった大手企業へ生徒たちがエントリーシートを書き、企業から出されるリアルな課題に対して自分たちでオリジナルの企画を考え、プレゼンテーションを行っている(生徒たちがプレゼンの際に使用するパワーポイントは、工藤氏の影響を受けたビジュアル重視のスタイルだ)。

 3年生では大手旅行代理店のJTBに対して、「自分たちの修学旅行企画」を提案する。取材旅行としてツアー企画を立て、2年生や保護者も呼んでプレゼンを行うのだ。旅行先では自分たちで取材し、写真を撮り、パンフレットを制作する。

 他にも、ビジネス研修プログラムさながらの「スキルアップ宿泊」や、大学法学部で民主主義によるリアルな対立を学ぶ「模擬裁判」、有名料理人の陳建一氏が教える「調理実習」、アフタースクールとして放課後に東京大学や東京理科大学の学生から学べる「麹中塾」(こうちゅうじゅく)など、独自の取り組みを進めている。

麹町中学で行われている「スキルアップ宿泊」の様子 写真を拡大

 外部企業や専門家、学生などを巻き込んで教育現場を変える「オープンイノベーション」は、工藤氏の真骨頂とも言える。「学習塾に通うことなく高いレベルの授業を受けられるため、保護者からも非常に喜ばれている」という。

 既成概念を打ち破り、公立中学校発の改革を次々と実現している工藤氏。この連載では、その活動の背景を探っていく。

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「目的思考」で学びが変わる
千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦

多田慎介 著(ウェッジ)
2019年2月16日発売

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第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい
第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない
第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:麹町中学はなぜ、「固定担任制」を廃止したのか
第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ​
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円×工藤勇一)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円×工藤勇一)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

  
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