外資系大手IT企業の執行役員を務め、カリスマプレゼンテーターとしても知られる澤円氏。そして、学校現場において前例のない改革を次々と実行する工藤勇一氏。現在では多くの人に影響を与える立場となった2人だが、自身のキャリアを振り返るとき、それぞれが「失敗の連続だった」と語る。若手時代の澤氏と工藤氏が経験した葛藤とは――。(⇒前編から読む)
007シリーズの「Q」になりたかった
工藤:学生時代を振り返ると、教員志望の多い数学科と異なり、今でいうIT系の応用数学科という環境では周囲に教員を志望する人が始めはほとんどいませんでした。大手企業や研究職を志望する学生が多い中で、教員を目指す私は異端だったのかもしれません。
澤:工藤さんはなぜ教員の道を志したんですか?
工藤:「1人でやれる」ところに魅力を感じたんです。人を使うことも、人に使われることもない仕事だと。当時はそう思っていました。実際に教員になってからは、もちろん先輩によく聞くようになりましたが、基本的には1人で悶々と考えているタイプでしたね。「生徒にこれを話したらどうなるだろうか」「保護者にこう伝えたらどんな反応があるだろうか」とイメージし、アウトプットしていく中で、自分というものが見えてきたように思います。
澤:答えは内面にあるということですね。僕はよく若い人にそう伝えていますよ。何が自分にとってうれしいことなのか、成し遂げたいことなのか。自分の内面にあるものを見つめるのはとても大切なことだと思います。「人脈を作りたい」と言って名刺をたくさん持ち、異業種交流会に出かける人もいますが、それよりも静かな場所で自分の内面と向き合う時間を持つほうがいいんじゃないかな。
工藤:それはとてもよく分かります。私も人脈を作りたいと思ったことは一度もないですね。会いたい人がいて、実際に会いに行ったことはありますが。
澤:かくいう僕も、就職活動のときにはやりたいことなんてありませんでした。若い人に聞かれてそう答えるとがっかりされることもあるんですが(笑)。いろいろな企業の面接を受けて、やっともらえた内定を、4年生の年末に蹴ってしまったんです。そのときに思い浮かんでいたのは映画『007』シリーズのQ (キュー)(※)でした。
※『007』シリーズに登場する脇役。イギリス情報局秘密情報部(MI6)の一員。主人公のジェームズ・ボンドためにさまざまなアイテムを発明する。
工藤:Q、ですか?
澤:Qが発明するアイテムがなければ、いかにジェームズ・ボンドとはいえ無事では済みません。テクノロジーの力で主人公の超人的な活躍を支えているわけです。将来のことをあれこれ考えていく中で「自分がやりたいのはこんな仕事だ!」と思うようになったんですよね。それでエンジニアを目指すことにしました。
工藤:私も似た部分があるかもしれません。こんなこと言うと始めから教員を目指している人には申し訳ないのですが、実際に教壇に立って目の前の子どもたちと出会い、本気になった。そんな感じです。