麹町中学校の行事には、生徒たちだけで企画・運営されているものが多い。今年度実施された「体育祭」もその一つだ。「社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない。だから自分たちで考え、実行する力を身につけてほしい」。生徒たちにそう語った校長・工藤勇一氏は、体育祭に向けて一つの大きな目的だけを共有し、あとはすべてを委ねたという。そのメッセージを生徒たちはどのように受け止め、行動したのか。率直な気持ちを聞かせてもらった。
先生や親への忖度は一切なし
薄曇りに日が差し込み、絶好の運動日和となった5月下旬の土曜日。麹町中学校のグラウンドで開催された体育祭には多くの保護者が観覧に訪れていた。
開会式では校長の工藤氏が立ち会い、選手宣誓が行われる。生徒会長のあいさつに続いて、全校生徒を二分する東軍・西軍それぞれの応援団がエール交換を実施。いずれも学ランを身にまとい、エールや振り付けは「いかにも応援団」といった風情の昔ながらのスタイルだ。
生徒たちが自ら考えたという種目には物珍しいものが多い。特に異色だと感じられたのが「ピコピコハンマー騎馬戦」。1試合ごとに東軍・西軍の大将を取り巻く形でたくさんの「騎馬」が出陣し、大将が身につけるヘルメットの上に付けられた風船を先に割ったほうが勝ちというルールだ。一直線に相手方の大将を目指して突進したり、他の騎馬が大将を取り囲んで超守備的な布陣を敷いたり……。それぞれの戦略も楽しめる、見応えのある種目だった。
時間の経過とともに観覧する保護者の数が増えていく。限られた観覧エリアはやがて大混雑となり、レジャーシートを敷く場所が見つからず立ち見を続ける人もちらほら。グラウンドの両脇には過去にPTAが寄贈した大型テントが設けられているのだが、保護者は使用できない。「生徒以外立ち入り禁止」と大きく標示され、あくまでも生徒のための場所として使われていた。部外者としては、ちょっと保護者をぞんざいに扱い過ぎではないだろうか……と心配になってしまうくらい、「生徒ファースト」が貫かれていると感じたのだった。
記憶の片隅から、自身が体験した中学校の運動会の風景を思い出してみる。目の前で行われているイベントは明らかにそれとは違う。多くの生徒が全力でこの祭を楽しんでいる。やらされ感は見えないし、先生や親への忖度めいた演出も一切ない。
生徒たちは、どのようにしてこの日に向けた準備を進めていったのか。