公立中学が挑む教育改革

2018年7月30日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

運動が得意な人が輝き、そうでない人も笑顔で参加できる「祭」

「中学校の体育祭といえば、普通は教員が主導して準備を進めるものだと思います。でも麹町中は完全に生徒主導。私たちはほとんど口出ししていません」

 教員はそう説明しながら、体育祭の企画・運営に携わった主要メンバーを紹介してくれた。大きな役割を果たした「企画委員会」と「実行委員会」の中心的生徒たち、そして東軍・西軍の各応援団長だ。

 生徒会長であり、企画委員長も務めたAさん(3年生男子)は、この大役を務めるにあたって校長から「観客のことは考えなくていいから、自分たちが楽しめるように企画してほしい」とオーダーされた。

「昨年の体育祭には徒競走などの個人競技やクラス対抗競技があり、みんなが勝ち負けにこだわり過ぎてゴタゴタしてしまった印象がありました。審判役の先生に『今のはミスジャッジだ!』と抗議する生徒も。運動が得意な人は楽しめるけど、そうじゃない人は脇役になってしまうという感じも嫌だな、と思っていました」

 だから、「自分たちが楽しめるように」という校長のメッセージはすっと腹落ちしたのだという。チーム分けを一から見直し、全校を二分する「東軍・西軍」へ。くじ引きで所属を決める一方、運動を得意とする生徒がどちらかに固まりすぎないようにするという調整も入れた。

 誰もが楽しめるように種目も一から考えた。ルールはすべてオリジナル。前述の「ピコピコハンマー騎馬戦」は、安全面を考慮しつつ、運動が苦手な生徒も戦略を考えることで一緒に楽しめるようにと生み出されたものだった。「昨年と同じことはほとんどやっていません」とAさんは話す。

 こうした企画プロセスの根底には、同じく自分たちで考えた一つのコンセプトがあった。

 “With Smile 〜楽しいが聞こえる体育祭”

「祭」はみんなが楽しめなければ成り立たない。運動が得意な人が輝き、そうでない人も笑顔で参加できる体育祭にしたい。

積まれた畳の上にどれだけ多くの人が乗れるかを競う「華のステージ」。仲間の身体をしっかり支え合うことで勝利を目指す。運動が得意でない子も一緒に楽しめるこうした競技を、生徒たちでアイデアを出し合い企画していったという

 実行委員長を務めたMさん(3年生女子)は、このコンセプトを大きな目的と置いて準備したプロセスを振り返る。悩みどころだったのは、昨年まで目玉種目の一つとして存在していた「3年全員リレー」だった。その名の通り、学年全員参加で勝敗を決める種目だ。これを残すべきなのか、廃止すべきなのか。「With Smileでみんなが楽しめるようにする」という大きな目的にはそぐわないように思えた。

「生徒全員を対象にアンケートを取ったら、『全員リレーをやりたくない』という声が意外と多かったんです。でも『やりたい』という人も、もちろんたくさんいました。続けても、なくしても、みんなが楽しめるようにはならない。そんな議論をした結果、今年は有志リレーという形にしました」

 単純に多数決で物事を決めるのは簡単だ。しかしそうはしなかった。少数意見も取り入れなければ、「みんなが楽しめるように」という目的から外れてしまう。「目的から逆算して手段を決める」というのは、常日頃から工藤氏が伝え続けていること。生徒たちは悩みながらも、この大原則に沿って答えを出していったのだった。

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