新宿区教育委員会で、行政を巻き込んでの一大改革を推し進めていった工藤勇一氏。その次なる舞台が千代田区立麹町中学校だった。2014(平成26)年に校長に就任するやいなや、矢継ぎ早に学校改革のための施策を実行していく。「公立の名門校」としてブランドを確立していた麹町中学校だが、工藤氏の目には無数の課題が映っていた。そのとき、職員室では何が起きていたのか。
着任4カ月で200の課題を洗い出し、事業計画を立てる
東京に生まれ育った人なら、「番町・麹町・日比谷・東大」というフレーズを聞いたことがあるかもしれない。千代田区立番町小学校、千代田区立麹町中学校、そして東京都立日比谷高校を経由して東京大学へと至る、「国公立エリートコース」を指す言葉だ。
2017年に創立70年を迎えた麹町中学校が公立名門校と認識されるようになって久しい。かつてはありとあらゆる方法で越境入学を試みる保護者が急増し、最盛期には1700人を超える生徒数を誇ったという。現在では区の規定が厳しくなり、「両親が共働きで、いずれかの職場が学区域内にある」という条件を満たさなければ越境入学はできない。ほぼ地元の生徒たちで構成されている全校生徒約400人弱の学校だ。
2014年4月に校長となった工藤氏は、即座にこの学校の課題を洗い出した。大きなものから小さなものまで、6月までに160近い課題が見つかった。7月、夏休みに入るとすぐに全教職員を集め、全体研修を行った。
「この学校の課題だと思うことを書いてほしい。不満でも構わない」
教員に個別に考えてもらい、グループワークなどを経て約40の課題を集約。そこに工藤氏が見つけた160の課題を加えて、解決すべき事柄は200を超えた。優先順位をつけ、事業計画を作る。ここまで就任から4カ月。改革を急いだのは、行政に関わってきた経験値があったからだ。
「区の予算要求は概ね毎年11月頃には形になります。校長として教育委員会と折衝し、必要な予算を認めてもらうためには、夏頃までに準備を終えておく必要があるのです」