公立中学が挑む教育改革

2018年3月5日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

「横割り」組織の論理を壊し、「全員担任制」という新たな挑戦へ

 麹町中学校で副校長を務める宮森巖(みやもり・いわお)氏は、着任9年目のベテラン。理科教諭として赴任し、校務管理や若手教員への指導にあたる主任教諭・主幹教諭を経て、先代校長の時代に副校長となった。工藤氏の改革による変化を最もよく知る人物の一人だ。

「以前は、『雑務はすべて副校長がやるもの』というおかしな雰囲気がありましたね。職員室の電話が鳴っても、教職員は誰も出ないんです。私がすぐに出られないときは何コールも響いていました」

千代田区立麹町中学校副校長・宮森巖氏

 現在では、職員室の電話が鳴れば、誰かが必ず3コール以内に対応する。これは工藤氏の着任後に始まったビジネスマナー研修の成果だ。「電話は3コール以内に出る」「『麹町中学校の◯◯です』ときちんと名乗って対応する」。一般企業の新人研修のようだが、麹町中学校では50代のベテラン教員であれ新卒の事務職員であれ、新たに赴任した人は必ずこのカリキュラムを受けることになっている。

 トップが改革者となったことで、教員同士の関係性にも変化が生じた。

「これは他の学校にも見られることかもしれませんが、かつての麹町中学校の教員は学年ごとのセクションに分かれて、学年主任を中心に強固なチームを作っていました。これ自体は悪いことではないのですが、行き過ぎると全体の連携を阻害することにもつながります。教員同士にも情があるので、『まずは担任を盛り立てよう』とか『学年主任の顔を立てよう』とか、組織の論理で動いてしまうこともある。しかし本来は、学年主任や担任の立場にこだわらず、一人ひとりの生徒にとって最も教育効果を発揮できる教員を前面に出していくべきです。工藤校長は、そんな『当たり前のこと』を実践させました」

 以前は、生徒に何か問題が起きても、別の学年の教員が関わることはほとんどなかった。しかし現在では違う学年の教員もどんどん首を突っ込む。縦割りならぬ「横割り」組織の論理を、工藤氏が良い意味で壊したからだ。その生徒の問題と向き合うために、誰が最も適任なのかをフラットに考えて対応させる。宮森氏は「工藤校長が来てから、教員間のコミュニケーションは格段に濃くなった」と感じているという。

 教員の意識が着実に変わっていく様子を受けて、工藤氏はさらに大きな改革を準備している。2018年度から、麹町中学校では従来の常識であった「固定担任制」を廃止し、「全員担任制」を採用することが決定したのだ。生徒と教員との信頼関係を一層深め、生徒一人ひとりにより質の高い指導・支援を行っていくことがねらいだ。

 これによって、朝の会や道徳、総合的な学習の時間などを含め、従来は固定の担任教諭が担っていたすべての業務に、状況に応じてもっとも適切と考えられる教員が適宜配置されることとなる。生徒は「今、最も頼りたい先生に相談する」というアクションをシンプルに実行することが可能。面談などは生徒や保護者の希望を優先して決定していくという。

 こうした取り組みも、既存の組織運営にとらわれることなく、「生徒と保護者にとって最も質の高い教育体制を実現する」という目的を最優先して手段を考える工藤氏ならでは。この春からスタートする新たな試みを、本連載でも追いかけていきたいと考えている。

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