「宿題は出さない」「固定担任制は廃止」。麹町中学校校長の工藤勇一氏は、次々と急進的な改革方針を打ち出す。さらに2018年度からは、これまで当たり前に行われていた「テストの常識」を変えるという試みも……。しかしその舞台は公立中学。我が子を預ける立場の保護者の中には、「普通の学校ではなくなっていくこと」に対して不安を抱える人がいるのも事実だ。工藤氏はそうした声を面と向かって受け止め、言葉を尽くして語り合うことで、学校と保護者が一体となる関係を築いている。その現場の一つをレポートしたい。
今の子に必要なのは「自由に転職したり、起業したりできる力」
新年度を目前に控えた2018年3月のある日。麹町中学校の会議室には続々と保護者が集まっていた。入り口の案内板には「The 麹中座談会」と書かれている。工藤氏を囲んで自由に議論をするための場として、一昨年度から同校のPTAが企画する自由参加のイベントだ。
会は「麹町中学校の目指すところ」と題した工藤氏のプレゼンテーションから始まる。パワーポイントを活用しながら語りかけるいつものスタイル。だがその言葉は刺激的だった。
「AI(人工知能)やロボットなどの技術が進展し、経済構造が大きく変わりつつあります。大企業に就職しても安泰とは言えない時代となりました。弁護士や会計士、内科医などの高度な専門職も、いずれはAIに取って代わられるかもしれないとも言われています。今の子どもたちに求められるのは『自分の力で転職したり、起業したりできる力』なんです」
しかし学校教育では、相変わらず忍耐や礼節、協調といった「組織の歯車の一部となって働くための力」ばかりが重視されている。これらはもちろん大切だが、優先すべきことが変わってきているという。工藤氏の持論は続く。
「教員はむやみやたらに宿題やドリルを生徒に課します。これは勉強ができる子にとっては無駄でしかなく、できない子にとっては重荷が増えるだけです」
「『他者意識のない作文』を書かせることも問題。作文は一体、誰に向けて書かせているのでしょう? 自分? 担任? 本当は運動会がつまらなかったとしても正直には書かずに、『感動した』とか『素晴らしい』とか、思ってもいないことを綴る生徒もいます。文章は読み手である『他者』を意識してこそ意味を持ちます。そして『伝えたい』という強い思いがあるからこそ、表現力が身につくものだと考えます」