2022年7月1日(金)

公立中学が挑む教育改革

2018年7月30日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

「答も式も自分たちで考える」という感覚

 体育祭を大いに盛り上げた応援団も、生徒たちが自ら考え誕生したものだった。クラス対抗で行われていた昨年までは、そもそも応援団がなかったのだ。

 東軍応援団長を務めたMさん(3年生男子)と、西軍応援団長を務めたYさん(3年生女子)は、まったく前例がない中でリーダーの重圧と戦いながら本番までの日々を過ごした。

「応援団のエールや振り付けは、ネットの動画をたくさん見て真似をしました。『どうせならガチでやりたい』と思って研究したんです」とYさんは話す。代々受け継がれてきたかのように見えたあの応援団の動きは、実は動画視聴サイトを教材にして学んだものだった。

応援団によるエール交換

 東軍のMさんは、前例のない応援団作りの苦労話を教えてくれた。

「『みんなが楽しめるように』という目的ははっきりしているけど、そのために何をするかで応援団メンバーの意見が分かれることもありました。みんなの意見を取り入れていかなきゃいけないけど、団長の役割を果たすためには自分の意志もはっきり伝えなきゃいけない。エールの方法や振り付けの動きを議論したときには、たくさんのアイデアが出て、最終的に自分がきっぱり決めなければいけない場面もありました」

 2人の苦労は、20名弱の応援団メンバーを率いることだけにとどまらない。全校生徒を二分した、東軍・西軍それぞれ約200名の生徒たちにもエールを教えていかなければならないのだ。グラウンドを使って全体の隊列練習も行ったが、雨が続いて予定をつぶされてしまうこともあった。

「応援団が前に出て全校生徒の前で発表する機会があったんです。声出しの練習を兼ねて全員でコールをしようとするんですが、最初はみんな恥ずかしがって声が出ませんでした。『ここで盛り上げられないと当日は楽しめない』『自分たちが楽しめれば、見てくれる人も楽しんでくれるはず』と思いながら、応援団のメンバーと一緒に頑張りました」(Yさん)

 体育祭の当日は、2人の団長を中心にして会場から大きなエールが聞こえていた。何もかも初めてづくしの応援団の挑戦は、見事成功したのだった。

 ここまで自分たちで考え、やりきった背景には、工藤氏からの力強いメッセージがあったのだという。Mさんは「社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない。だから自分たちで企画し、自分たちで実行してほしい」という言葉が強く印象に残っていると話す。

「よくテストであるような、『先に答を出されて式を埋めていく』という感じではないんです。『答も式も自分たちで考える』という感覚です」

 そんな先輩たちの姿を見て、後輩も刺激を受けているようだ。応援団に参加したある2年生男子は、「種目もルールも応援団も、最初から決められているものだと思っていました」と振り返る。「自分たちで自分たちの体育祭を作るのは大変だとも思っていましたが、やってみるととても面白かった」とも。

 来年も麹町中で体育祭が開催されるかどうかは分からない。もし開催されるとしても、今年とはまったく違う風景になっているのかもしれない。

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