「どこで、何曜日に、何時まで働くのか」。働き方改革の先頭を走る企業として注目されるサイボウズでは、社員全員が自らの働き方を宣言し、実行しているという。社員に「自立」を求め続ける代表取締役社長の青野慶久氏と、子どもたちに「自律」を求め続ける麹町中学校校長の工藤勇一氏。経済界と教育界を代表する2人の改革者が、変化の時代に必要な学びについて語り合った。
自分の力で生きていける子どもを育てるための「マネジメント」
青野:麹町中学校では、公立だとは思えないような改革がどんどん進められていますね。
工藤:今年度は、改革の大きな柱の一つとして固定担任制を廃止しました。従来は1学級に1人の担任を固定するのが当たり前でしたが、これをなくしたんです。1人の担任に生徒のすべてを委ねるのではなく、チームでもっともベストな対応を行えるようにした仕組みです。病院における「チーム医療」のようなものです。面談の期間になると、保護者から「どの先生と面談したいか」の希望を出してもらっています。もちろん生徒もですよ。
青野:会社も同じで、「上司と合わないな」と悩んでいる社員がいても、他の上司に相談できる方法があれば救うことができるかもしれません。子どもにとっても、自分で「どの先生を頼るか」を選べることは大きいですよね。
工藤:そうですね。サイボウズさんでは「自立」をキーワードにしていると思いますが、私は一文字違いの「自律」を掲げています。意味するところはサイボウズさんと同じだと思いますが、自分の力で生きていける子どもを育てることが大きな目的なんです。自分の力で生きていける子とは、別の言い方をすれば「人のせいにしない子」ですね。
青野:まさに私も同じことを考えています。
工藤:でも従来の学校では、「人のせいにする仕組み」ばかり作られているように思うことがあります。
青野:人のせいにする仕組み、ですか?
工藤:固定担任制はまさにそうです。ある担任が、うまくクラスをまとめられない状況に陥っているとします。もちろん背景にはその教員の力不足もあるかもしれません。すると職員室では「あの担任だったら問題が起きるのは当然だな」という雰囲気になる。クラスにいる子どもたちも「うちのクラスは落ち着かないな。あの先生だからしょうがないよな」と考えるようになってしまう。
でも固定担任をなくせば、職員室の教員たちは「どうやって自分の得意分野を生かすか」を考えるようになります。子どものSOSのサインを見抜くのが得意な教員もいれば、保護者対応に長けた教員もいる。それぞれがワークシェアをするようになるんです。そうやって接していけば、結果として子どもたちも人のせいにしなくなり、自律のスイッチが入っていきます。
青野:なるほど。先生たちの間にチームワークが生まれるやり方なんですね。
工藤:これを運営するためにはマネジメントが大切です。問題に柔軟に対応して、適材適所で教員の強みを生かせるマネジャーがいるかどうか。これが学校運営の肝だと考えています。
青野:私はよく「これからのマネジャーに求められるのは石垣を組む能力だ」と言っています。一つひとつの石の形を見ながら、「ここだったらこの石、あそこにはこの石を……」と当てはめていく。そんな感覚です。
工藤:大切な力ですよね。青野さんの著書『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』を読んで、私と似た感覚だなぁ、と感じました。