2024年11月23日(土)

公立中学が挑む教育改革

2018年9月21日

「我が子がどんな風に育っていくべきなのか」という意識も変わる

青野:教育改革を成し遂げるためには、保護者も意識を変えていかなければいけないのかもしれませんね。自らの意志で起業したり、自由に転職したりできる力が大切だと言われても、「やっぱりうちの子には良い大学に入って、大企業に入社してほしい」と思ってしまうかもしれない。

工藤:そうした本音は当然ありますよね。

青野:でも、長らく日本の経済を牽引してきた大手電機メーカーが次々と苦境に陥りました。フィンテックの登場で金融業界にも大きな変化が訪れつつあります。タクシーやホテル業界も、ITの進化によって変わらざるを得なくなっている。時間差はあっても、この波は全産業に広がっていくでしょう。それに気づいている人は、「我が子がどんな風に育っていくべきなのか」という意識も変わっていると思います。

工藤:現実は、もう大きく変化してしまっているということですね。

青野:はい。かつては、私たちのような比較的新しい分野の会社は「ITなんて虚業だ! 怪しい!」なんて言われていました。でも今ではプロ野球を見ても「ソフトバンクホークス」とか「DeNAベイスターズ」とか「楽天イーグルス」とか、気づけば新しい会社が増えています。「大企業」のカテゴリーに私たちのような新しい会社が加わっていくことで、保護者の見え方も変わっていくんじゃないかと思います。

「サイボウズは大企業だからぜひ入りなさい!」という言い方をする保護者が増えていくかもしれません(笑)。

工藤:「そして、サイボウズに入るためにはどうすればよいのか?」と考えれば、既存の教育スタイルでは厳しいと気づくかもしれませんね。

青野:そうですね。子どもが麹町中に通う3年間で、保護者も変わっていくものですか?

工藤:変わる人は多いかもしれません。

卒業生の例なんですが、親としてはやはり大学に行かせたいと考えていたそうです。でも実はその子は料理が大好きで、「将来はシェフになりたい」という夢があって、調理専門学校に行きたいと考えていたんですね。それでお母さんが私のところに「どうしたらいいでしょう?」と相談に来たんです。

青野:卒業後も相談できるなんていいですね。

工藤:私は「自分の行きたいところに進ませてあげればいいんじゃないですか」と答えました。

進路って実は、選択の幅を広げていくよりは逆に狭めたほうが、結果として未来が広がっていくように思います。狭めた道で尖ったスキルを身につけたほうが、将来違う道を選んだときにも、そこで学んださまざまなスキルと経験が役立つんですよね。

そんな話をしたところ、最終的にはお母さんも「覚悟しました」と。子どもは調理専門学校に進み、充実した日々を送っていると聞きました。

青野:かっこいい! 親も変わるんだ。

工藤:そのお母さんからは「麹町中に通ってよかった」と言ってもらえました。麹町中を、そして日本中の学校をそんな風にしていけたらいいですね。そうすればもっともっと活気があふれる国になっていくはずです。あちらこちらで起業する若者が現れ、課題解決をする事業に取り組む人が増えていくんじゃないでしょうか。

青野:それは夢物語なんかではないと思います。私もぜひ、一緒にコミットしたいですね。

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(撮影:稲田礼子)

▼連載『公立中学が挑む教育改革』
第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい
第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない
第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:なぜ、麹町中学は「固定担任制」を廃止したのか

第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ​
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円×工藤勇一)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円×工藤勇一)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

  
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