外資系大手IT企業の執行役員として多くのメンバーを率いる澤円氏。校長として教職員や保護者をも巻き込んで改革を主導する工藤勇一氏。立場は異なるものの、2人が考える「マネジメント論」には共通項があった。特別対談の最終章は、人が成長し、幸せに生きていくための関わり方について語り合う。(⇒前編から読む)
上司も部下も「自分の生徒」だと思って接する
工藤:澤さんがマネジメントする組織は多様性に富んでいますよね。
澤:そうですね。僕のチームメンバーは年上ばかりです。「部下」というと一般的には組織図の下に位置する人だととらえてしまいがちですが、僕はその当たり前を見直すべきだと思っていて。年齢に関わらず、本来、人としては絶対的に平等じゃないですか。
工藤:おっしゃる通りですね。
澤:でも年齢が下の部下には「俺の言うことを何でも聞け」という態度を取ってしまう人もいます。「自分が正しい」とか「言うことを聞かせなければならない」という考え方になってしまうと、行動がおかしくなるんですよね。
工藤:自分の言葉がどう伝わっているか。それを想像して人と接していくことも大切ですよね。私は30代で学年主任になり、40代で副校長を務めました。中間管理職になりたての頃は、意図した通りに言葉が伝わらなくてついイライラしてしまう自分もいました。
澤:そうなんですか。意外な気もしますね。
工藤:そうしたことの解決策を教えてくれたのもやはり子どもたちだったんですね。子どもたちは基本的に、大人の言葉を都合よく解釈してくれることはありません。特に中学1年生くらいだと、「時間を守る」「集中力を保つ」といったことを伝えるのにも苦労することがあります。
澤:僕も中学1年生のときは、先生の言うことをろくに聞いていなかったかもしれません(笑)。
工藤:でも相手が子どもだったら、自分は教師として冷静になれるんですよ。最初はうまくいかなくてイライラすることもあるけど、だんだん子どもたちのことが分かってくると、あらかじめ反応を予想して手を打てるようになります。なのに、こと大人相手になると簡単ではない。それに気づいてからは、職員室でも上司である校長や副校長でさえも、ある意味、教室における「自分の生徒だ」と考えてみればいいのかと思うようにしたんです。自分は彼らの担任のつもりで接していけばいいのだと。失礼な話ですけどね(笑)。
澤:上司は自分の生徒! まさに思考の切り替えですね。
工藤:校長となった今でも、部下である教員たちとの接し方は同じです。「この人には今、どんな声をかけるべきだろうか」「何をすれば、どうすれば前進できるだろうか」と常に考えています。そのための助言をするし、ちょっとだけ褒めるときもあるし、子どもを傷つけてしまう可能性があるときには当然叱責することもあります。