公立中学が挑む教育改革

2019年3月6日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

常識に縛られ、勝手にルールを作る

澤:教育の世界には過去の膨大な実績があり、標準化されている枠組もあって、外から見ていると「独自の取り組みをするのは難しいのでは?」と感じることもあります。ベンチャー企業は完全に逆なんです。そもそも、過去の実績があったらベンチャーではありませんから。ベンチャーではみんな、自分の頭で考えなければいけない。麹町中ではベンチャーに近い風土が生まれているのではないでしょうか。

工藤:いえ、まだまだだと思います。しかし自律した子どもを育てたいなら、大人も自律しなければいけません。それは教員も保護者も同じ。麹町中に関わるすべての大人が自律しなければいけないんです。今は生徒や保護者に学校の経営権をどんどん移譲しているところです。

澤:まさにこれからが、ベンチャーのように学校が変わっていく本番なんですね。

工藤:はい。ただ、変えていくことそのものが目的ではありません。時代に合わせていつでも変化できるように、学校に関わる人みんなが当事者になってコミュニケーションし、違いを認識して目的を合意形成していく。そんなチームにならなければいけないと思っています。

澤:深く共感します。

工藤:澤さんが著書の『あたりまえを疑え。』で書かれていた視点は、とても大切だと思うんですよ。現代の日本は変化を嫌う、変化のリスクを恐れる世の中になってしまった。私たちは変化ができる世の中に戻していく責任があると思います。みんなの通り道である教育の責任は特に大きい。変化を恐れず、「この目的は何?」と議論し合う子どもばかりが育てば、社会はあっという間に変わるはずです。

カリスマプレゼンテーター・澤円氏

澤:そのためには、「つい正解を求めてしまう」癖を直さなければいけませんね。先日、あるワークショップを開催した際に象徴的な光景を目にしました。僕が指定していないルールを勝手に作って苦しむ人がいるんですよ。

工藤:ルールを勝手に作る?

澤:はい。アイマスクをしてもらい、ペアを組んだ人から指示を受けて絵を描いてもらうというプログラムです。そのとき僕は指示役の人に「アンパンマン」の絵を見せて、「これを描いてください」というお題を出したんです。アイマスクをしている人に最も確実にイメージを伝える方法は何だと思いますか?

工藤:「アンパンマンを描くんだよ」と教えてあげることではないでしょうか。

澤:そうですよね。でも参加者の中には、それを言葉で伝えない人もたくさんいたんですよ。僕は何も禁止していないのに。つまり、「このゲームではアンパンマンだと言ってはいけないんだ」というルールを作り、思い込んでしまっているんです。アイマスクをしている人は「何を描けばいいか最後まで分からなかった」と言っていました。

工藤:勝手にルールを作り、勝手に思い込んでいると。

澤:はい。極端なことを言えば、僕は「アイマスクを外してはいけない」とも言っていません。でも全員アイマスクを外さないし、おまけに新たなルールを勝手に作って縛られてしまう。「常識的に考えたらこうだよな……」という呪縛があるのかもしれませんね。日本の会社組織でも、常識という縛りにとらわれている場面が多いと思います。本当は「あなたはどう思うの?」と問いかけ合い、自由に思考するべきなのに。

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