世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月14日

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 ムハンマド皇太子が進める大胆な改革はサウジに必要なもので、西側も後押しすべきだが、やり方が性急過ぎるので、強権的改革の失敗になりかねないと11月9日付の英エコノミスト誌が警告しています。要旨は以下の通りです。

(iStock.com/Vlajko611/Guingm/Jevgeni_Tr/macrovector)

 サウジの最近の出来事には驚かされる。大勢の王子、大臣、役人が逮捕され、イエメンから発射されたミサイルがリヤド近くで迎撃され、サウジはイランの戦争行為を非難した。

 中東の秩序崩壊の中にあって安定を保ってきたサウジだが、国内の混乱と国外での戦争の脅威の組み合わせは危険だ。世界最大の石油輸出国かつアラブの経済大国で、イスラムの二大聖地を擁するサウジの不安定化は容認できない。

 この嵐の中心にいるのがムハンマド皇太子で、宮廷革命を断行し、弱冠32歳で建国の祖、アブドゥルアジズ以来最強の指導者となった。これは、サウジが必要とする徹底改革の前触れかもしれないが、反面、アラブ独裁主義の新たな失敗例になる危険性もある。

 石油ブームの終焉、人口の急増、厳格なワッハービズムに対処するには、国の徹底改革が必要だ。ムハンマドは、国の改革と石油依存脱却に民間企業を活用する計画を立案し、女性の運転禁止解除を約束し、宗教警察を抑える等、社会的拘束も一部緩めた。また、若者の擁護者を自任し、「世界と全宗教に対して開かれた近代的イスラム」への回帰も語っている。

 これらは全て大歓迎だが、変革実現のために取っている方法は心配だ。一つには、彼の行動が性急で、例えば、イエメンでホーシー派に対する勝者なき戦争を開始し、人道的惨事を引き起こした。また、隣国カタールの孤立を図った結果、湾岸協力会議を破壊し、カタールをイラン側に追いやってしまった。しかし、制約のない王子は更に無謀になる可能性がある。

 もう一つの懸念は経済だ。ムハンマドの改革は外国投資の誘致を当てにしているが、アルワリード王子のような世界的投資家が逮捕されるようでは、投資家は投資を躊躇うだろう。

 第三の不安要因は王制の不安定化だ。サウジの支配は、王族間の勢力均衡、ワッハーブ派聖職者の承認、市民への手厚い社会保障を基盤としてきたが、ムハンマドは自らへの権力の集中、社会的自由の推進、緊縮と民営化の強要によってこれら全てを弱体化させつつある。

 これは変える必要がある。しかし実情は反論の余地が消え、処刑が増加し、法的手続き抜きで反腐敗運動が進められている。多くの一般市民は喝采しているが、一連の逮捕は法治ではなく、習近平の粛清のようだ。今後抵抗にあい、支持基盤が狭まれば、王子は批判封じのために治安機構への依存を強めるかもしれない。そうなれば、共和制志向のアラブの絶対的指導者の過ちが繰り返されることになる。これまでもサウド家の崩壊は何度も予言されては、誤りであることが立証されてきた。サウド家の支配に代わるのは、カオスである可能性が高い。サウジの富の争奪戦の中で国は不安定化し、イランが勢力を伸長し、イスラム過激派は活路を見出し、諸外国は介入せざるを得なくなるだろう。

 世界はムハンマド王子の良き改革の成功を強く願うと共に、悪しき衝動は抑えるよう促さなければならない。トランプ大統領が粛清に喝采したのは誤りで、西側は、慎重な行動とイランとの対立回避、国内政治の解放を忠告すべきだ。王子は、君主は愛されるよりも恐れられよ、というマキャベリの格言に従っているのかもしれないが、君主は憎まれてはならない。

出典:Economist ‘The world should push the crown prince to reform Saudi Arabia, not wreck it’ (November 9, 2017)
https://www.economist.com/news/leaders/21731153-muhammad-bin-salman-seizes-all-power-saudi-arabia-world-should-push-crown-prince

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