イノベーションの風を読む

2018年2月14日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

ゼロから生み出されるイノベーションは意外と少ない

 イノベーションというと、それまでまったく存在しなかった製品を発明することと考えがちだが、人々の生活に大きな影響を与えるような製品は、既存の製品を置き換えるものであることが多い。iPodはウォークマンを置き換え、デジタルカメラはフィルムカメラを置き換え、そしてスマートフォンは携帯電話を置き換えた。それらは、置き換えた製品の市場のビジネスモデルを大きく変革して、その市場をさらに拡大するデジタル・ディスラプション(創造のための破壊)を引き起こした。

 デジタルカメラは、カシオやパナソニックの新規参入組の電機メーカーが先行した。それまでパソコンへの画像入力デバイスとしてデジタルカメラの開発に取り組んでいたキヤノンは、フィルムカメラ事業のリソースをデジタルカメラに集中し、2000年に発売したIXYデジタルを大ヒットさせて反脆さを示してみせた。

 

 他社の革新的な製品やビジネスモデルによって、自社の事業を破壊された事業責任者が「イノベーションのジレンマ」を口にすることがある。しかしジレンマとは、やるべきことがわかっていて、やりたいと思ってもできないときに感じるものだ。多くの場合、それは後付けの言い訳に使われる。やるべきことがわからないので、R&Dへの投資や人件費を抑え、株主に配当した残りの利益をひたすら溜め込む企業は、反脆さを備えることはできない。

 「私は、イノベーションや洗練というものは、最初は必要に迫られて生まれると思っている。いや、そう確信している。最初の発明や何かを作ろうという努力が思ってもみない副作用をもたらし、必要を満たす以上の大きなイノベーションや洗練へと繋がっていく」とタレブは言う。

 スティーブ・ジョブズは、2001年1月にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポでiTunesを発表し、Macがさまざまなデジタル機器を相互連携させるためのハブとしての役割を担うというデジタルハブ構想を披露した。赤字を垂れ流していたアップルのCEOに復帰したばかりのジョブズにとって、Macの価値を最大化して販売を伸ばすことが最大の課題だった。Macの周辺機器という位置付けで開発されたiPodが、後に音楽関連産業に起こしたデジタル・ディスラプションを、ジョブズも明確にはイメージしていなかった。

 キヤノンで、デジタルカメラの開発を始めたとき、それがフィルムカメラを置き換えて、カメラ市場を飛躍的に拡大するものになると信じていた人は何人いたのだろう。スマートフォンは携帯電話を置き換えたが、フェースブックやインスタグラムなどのソーシャルネットがなければ、ここまで人々にとって「なくてはならないもの」にはならなかった。

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