百年レストラン 「ひととき」より

2018年3月22日

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菊地武顕 (きくち・たけあき)

1962年、宮城県生まれ。編集者・記者。「E
mma」「女性自身」「週刊文春」「週刊朝日」と、25年以上にわたって週刊誌編集部で働く。著書に『あのメニューが生まれた店』(平凡社)。編書に「日本全国 おいしいものお取り寄せ」(文春文庫)。

 

中はフワッと柔らかい獅子頭

冬の一番人気、カキソバ1,000円。たっぷり野菜の上に、大ぶりのカキが乗る。この日は広島産

 和田さんは大学を卒業した昭和51年(1976)にこの店の厨房で修業を始めた。覚二氏は独立して横浜に「覚陽楼(かくようろう)」という店を出したので、「漢陽楼」で修業を積んだ後、父の店を継ぐ予定だったが……。2代目夫妻の息子の妻で3代目を継いだ林松英(りんしょうえい)女史と共に、ずっと2人3脚で店を支えてきた。

 松英女史は、平成22年(2010)に亡くなった。

 「誰が漢陽楼を繋いでいくのか、と考えた時、自分がやらなければと思いました。でも私はワンポイントリリーフ。3代目の息子の林勇(はやしいさむ)が成長し、一緒に店を盛り立てています。彼が立派な5代目になるでしょう」

 この日、撮影のための料理は、4代目と将来の5代目の2人で作ってくれた。ベースとなっている寧波の家庭料理は「素材を生かす味わい」が特徴だという。なるほど、どの料理もまろやかな味だ。

周恩来が愛した獅子頭1,470円。葱や貝柱などを加えた260gもある大きな肉団子を揚げた上で蒸し、澄ましスープと共にいただく。これひとつで満腹に

 最後に「獅子頭」を食べて驚いた。大きな肉団子で外は固いのだが、中はフワッとしている。握りこぶしほどもあるのに、やさしい味のスープと一緒に、飽きずにどんどんと食べ進む。日本語習得不足で受験に失敗した周は、故郷である江浙(こうせつ)の家庭の味に慰められたことだろう。

 「私が周恩来さんや孫文さんの話を知ったのは、日中国交正常化20周年の年(平成4年)です。3代目がそれ以前にどれだけ知っていたかは分かりません。知っていたのに、何も言わずにいたのかもしれない。政治については、口の堅い人でしたから。国交が正常化してしばらく経ち、周恩来日記が刊行されて、やっと話すようになりました。

 3代目がよく口にしていました。『美味しいものを食べると、人は皆笑顔になる。争いは起きない』。私たちはこれからも、とにかく美味しい料理を提供することだけを考えて、店を守っていくつもりです」

漢陽楼
<所在地>東京都千代田区神田小川町3−14−2
東京メトロ半蔵門線・都営三田線・新宿線神保町駅から徒歩3分
<営業時間>
11時30分~15時、17時~22時30分(土曜は21時まで)
<定休日>日曜・祝日
<問い合わせ先>☎03−3291−2911

写真・伊藤千晴

  
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◆「ひととき」2018年3月号より

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