優秀な教員の「採用・育成」にも力を入れる
組織が大きく変わったのは、工藤氏の考えに賛同し、志を同じくする教員が増えているからに他ならない。東京都教育委員会が実施する「公立小中学校教員公募」の制度を利用して、目指す学校像を実現するための「リクルーティング」にも力を入れている。非常勤職員を除くと麹町中学校の正規の教員数は約25名程度だが、4年間でその4分の3が入れ替わった。
「工藤校長も私も優秀な教員を常に探しています。公募制度で集まるのを待っているだけでなく、教員が集まる研究会などにも頻繁に顔を出して、『これは』と思う教員には積極的に声をかけています」
コミュニケーションの能力と技術に長け、「君のことを本気で考えているんだよ」という思いを生徒に心から伝えられる誠意がある人。その上で、教科における専門性が高ければ何より。そんなターゲットを設定して、校長とともに宮森氏は日々、優秀な人材の発掘に努めているのだという。
採用活動だけでなく、人材育成にも余念がない。
「私が学年主任を務めていた頃は、何か問題が起きても校長や副校長に相談することはほとんどありませんでした。いつも自分が『最後の砦』だったんです。しかし現在の麹町中学校では、教員が『こんな方法でやりたいんですが、どう思いますか?』と直接校長にアドバイスを求める場面が頻繁に見られます。工藤校長の指導技術がずば抜けていること、そしてその背中を積極的に見せていることが大きいのではないかと思っています」
生徒に何かしらの問題が生じて、保護者との間でトラブルを抱えてしまうこともある。そんなときに工藤氏は「保護者と語り合えるんだから、トラブルはチャンスだよ」と教員に語るのだという。日頃はなかなかじっくり話す時間を持てない保護者が、わざわざ学校へ足を運んでくれる。保護者との信頼関係を強化するためには、またとない機会というわけだ。
問題を解決するだけではなく、以前にも増して強固な信頼関係を築き、生徒のためにより良い環境を作る。そのためには校長自身が保護者と向かい合い、徹底的に会話する。「まずやってみせる」という姿勢もまた、工藤氏の特徴だという。
子どもが第一、次に保護者、そして教員。この優先順位を明確にして、問題解決にあたる教員へは「子どもたちのためになっているかを第一に考えろ」と言い続ける。そんな校長の存在が、一人ひとりの教員の行動を大きく変えたのだった。
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「目的思考」で学びが変わる
千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦
多田慎介 著(ウェッジ)
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第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい
第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない
第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:なぜ、麹町中学は「固定担任制」を廃止したのか
第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円×工藤勇一)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円×工藤勇一)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。
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