この熱き人々

2018年6月25日

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 水の吸い込みのいい米と悪い米。それによって米の洗いや浸しの時間を変えなければならない。米が吸った水分量の違いで、蒸し上がって室(むろ)に入れた時の麹(こうじ)菌の働きが左右される。だから酒の種類によって何パーセント吸わせるかを決めたら、洗いや浸しの時間を限りなく目標の吸水率に近づけるために秒単位で調整していく。

米を蒸し、麹菌を振りかけて米麹をつくる麹室は、菌が育ちやすいように約40度に設定されている。冷たい水場での作業の次は、一気に暑い中での作業になる。

 「食べる時の米は表面が軟らかくて粘りのあるのがうまいんだけど、酒は逆なんだね。外硬内軟(がいこうないなん)といってね、外側が乾いていて内側に水分が多い状態をつくりたいんや。米がどのくらい水分を含んだかは目方を量ればわかるけど、その水分が表面についているか中についているかまではわからん。膨らみや表面の状態を見たり、潰したり、食べてみないとわからん」

 表面を乾かすために部屋の温度と湿度をこまやかに調節し、水分を米粒の中へと追い込む。一粒一粒に根付いた菌を、表面ではなく米粒の芯に誘導して食い込ませる。

 そのために、農口は酒蔵の外にある杜氏や蔵人の宿泊施設から、夜中に2度も起きてきてチェックする。北陸の冬は厳しい。暖かい布団から起き出し、極寒の外に出て、再び40度の室に入る。

 「どのくらい糖がのっているか感じるために、室に入ると食べずにはおられん」
 
 そんな生活を長年続けてきた農口の歯は、40歳を過ぎた頃には総入れ歯になってしまったそうだ。酒造りは「一麹、二酛(もと)、三造り」といわれるが、農口は「一麹、二麹、三麹」「寝ても覚めても麹」「酒を生かすも殺すも麹」とよく口にする。麹こそが酒の命だということだ。思い通りの麹ができなければ、その先のさらに続く工程に影が差す。麹に全力を傾けた後も、さらに仕込みの段階で酵母菌との複雑な駆け引きが続くのだ。

 麹に酵母菌と水を加えた大きなタンクは、3段階で蒸米と麹を足しながらいっぱいにしていく。日本酒はワインやビールとは違う並行複発酵という方法で造られる。タンクの中では、米のデンプンを糖に変える麹菌と、糖をアルコールに転化する酵母菌の2つが同時に働いている。旨みは麹菌、キレは酵母菌。2つの微生物を操りながら、いかにうまい酒を造り出すかが杜氏の腕の見せ所になる。

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