国際社会が進める「脱炭素化」に向けて再生可能エネルギーの拡大が待ったなしの状況だ。日本においてその一翼を担うのは「水力」─資源小国・日本のエネルギー事情を変える力を秘めた純国産のCO2フリーエネルギーである。大規模水力開発の最盛期から半世紀を経て、今もそのポテンシャルを余さず活かすために電源開発(Jパワー)の挑戦が続いている。
脱炭素化の実現へ「再エネ拡大」の大号令
政府は今年7月3日、日本の長期的エネルギー政策の指針を示す「エネルギー基本計画」を4年ぶりに改定した。そこに記された2030年までに実現を目指す電源別の比率、いわゆる電源構成は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)22~24%、原子力20~22%、石炭・天然ガスなどの化石燃料56%とされ、3年前の「長期エネルギー需給見通し」から変化はなかった。しかし、政府が掲げる「2050年までに温室効果ガス80%削減」の目標に向け、再エネの「主力電源化」を初めて明記するなど、脱炭素化とエネルギー転換を強く進める国際的な世論に歩調を合わせる内容となった。
エネルギー業界も動き出している。電気事業連合会の加盟会社ら36社の有志は2016年2月、「電気事業低炭素社会協議会(ELCS)」を立ち上げ、「電気事業における低炭素社会実行計画」の推進と自主的枠組みの構築を進めていく姿勢を明らかにした。今年9月、協議会が発表した会員事業者のCO2排出実績(2017年度速報値)によると、排出量は4.11億トンで、前年度に対して0.19億トンの減少を記録した。ELCSには現在、43の事業者が加盟する。
その一つ、Jパワーは今春、中期経営計画における今後の取り組みとして「再生可能エネルギーの拡大」を筆頭に挙げ、2025年度までに再エネの新規開発だけで100万kW規模の出力増(2017年度比)を果たす目標を打ち上げた。
同社の再エネ発電事業は現在、全国61カ所に発電設備を構える水力(出力857万kW)と、22カ所からなる風力(同44万kW)が中心で、ともに国内シェア2位につけている。また、地熱発電所の建設や火力プラントでのバイオマス混焼も実施している。同社では今後、年間の発生電力量にして、水力で3億kWh、風力等で25億kWhの増加を見込んでおり、これらを合わせると約93万世帯の年間消費電力量に相当する。
Jパワーではまた、6月27日付で再生可能エネルギー本部が始動。水力発電部門と風力発電部門を中心に、再エネ推進の体制を整えた。同本部水力発電部再生可能エネルギー戦略室の鈴木智氏(水力発電部業務室総括マネージャー)はこう話す。
「戦後復興期に誕生した当社には、全国各地で大規模水力電源を開発し、高度経済成長を支えてきた歴史があります。以来、再生可能エネルギーのトップランナーとして歩んできた当社は、この大きな目標を掲げ、低炭素社会の実現に貢献したいと考えています」
クリーン発電を牽引する「水力」のポテンシャル
発電時にCO2を排出しない再エネが、脱炭素化に向けて不可欠な電源であることは間違いない。しかし、太陽光や風力は特に、天候など自然環境の影響を受けて出力が変動しやすいため、安定供給を確保するには、これに対応して電力を賄うための「調整力」が必要だといわれている。
そうした弱点を補う上でも、水力への期待は今なお大きいと鈴木氏は言う。貯水池式や揚水式と呼ばれる水力発電所では、電力需要に応じた素早い起動や出力調整が可能であり、需給バランスの調整に力を発揮するからだ。加えて、高所から低所へと水が流れる位置エネルギーを電気に変える際のエネルギー変換効率が高く、設備の運転コストも比較的低いというメリットもある。
「当社は100年以上利用可能といわれるダムや、大容量の貯水池を持つだけではありません。60年以上にわたる大規模水力発電設備の運用で培われた、発電所の立地から設計、建設管理、保守運転に至る一連のノウハウと、コスト競争力のある設備、それらに通じた人財のすべてがそろっています。こうした技術力や人財が、我々の強みとなっています」
ただし、課題もある。ダムを擁する大規模水力は国内ではほぼ整備され尽くした観があり、新たな開発に大きな期待はできないことである。そこで、Jパワーが今、力を入れている取り組みの一つが、既設の水力発電設備に対する「リパワリング」だ。高経年化した発電所の水車や発電機などを刷新し、最新技術によって発電効率と出力、設備の信頼性を高めるのである。
例えば、北海道三笠市の桂沢発電所および熊追発電所では目下、2022年度の完成を目指し、設備全体の仕様を見直す大掛かりな更新工事が進行中である。国土交通省直轄の桂沢ダムと芦別ダムに貯めた水を活用する両発電所はともに、1957年に運転を開始。以来、60年以上の歳月が経過した。
折しもその桂沢ダムが北海道開発局によって、治水のため、つまり水害などの緩和に向けて約12mという大規模な嵩上げ工事に乗り出したのに伴い、発電所でもダム水位の上昇への対応が必要となった。そのタイミングにリパワリングの時期を重ね、現在の設備を全面的に更新。嵩上げ後、新桂沢ダムの誕生と同時に、新たな設備で発電を開始するシナリオである。
一昨年、土木のエキスパートとしてJパワー新桂沢水力建設所に着任した髙橋康一氏はこう話す。
「ダムの水位が上がると、水車に至るまでの各設備にかかる水圧などの条件が変わるため、水車や発電機といった心臓部に加え、導水路などの付属設備も刷新します。その際、最新の解析・設計技術を用いることで、出力アップを果たすのです」
リパワリング完了後、新桂沢発電所では1万5000kWが1万6800kWへ、熊追発電所では4900kWから5100kWへと最大出力が増加する。「電力の安定供給は当社の使命。これはその貴重な一歩です。着実に発電電力量が上がるよう、また設備の信頼性が高まるよう、所員一丸となって取り組んでいます」と髙橋氏は言う。