中東を読み解く

2018年12月21日

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取引の中身

 撤退の決定は1国の指導者を除いて事前に伝えられることはなかった。その指導者とはトルコのエルドアン大統領である。両首脳はサウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、カショギ氏殺害事件について先の20カ国・地域(G20)首脳会合の場で話し合い、続いて12月14日に電話会談した。

 トランプ大統領が撤退の決定をする要因となったのがこの電話会談だったようだ。エルドアン大統領はこの直前、テロリストと見なすシリアのクルド人勢力の脅威を取り除くため、数日中にシリアに侵攻すると恫喝、事実、シリアとの国境に軍や戦車を集結させ、巻き込まれないよう米軍に警告していた。

 同紙によると、エルドアン大統領はこの電話会談で、シリアのクルド人はテロリスト集団であること、ISはすでに掃討されているのに、米軍が駐留する必要性はないこと、有事の際には北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるトルコが対処するので心配ないことなどを伝えたという。

 また、特筆すべきはトルコが1年以上も求め続けてきたパトリオット迎撃ミサイルの売却について、トランプ政権が撤退の決定と同時期に承認し、議会に通告した点だ。政権内部では、エルドアン氏がロシアから最新の迎撃ミサイル・システムを購入するなどしたため、パトリオットの売却に反対論が噴出していた。しかし、トランプ大統領は今回、エルドアン氏の要求をのんだことになる。

 いずれにせよ、大統領はエルドアン氏の説得に応じて撤退に傾いたことが濃厚だ。大統領にしてみれば、選挙公約であるシリアからの軍撤退を実現し、仮にトルコが侵攻しても、米兵が巻き添えを食うことはなくなる。カショギ氏殺害事件についても、撤退を条件に「トルコがサウジの責任追及をやめる」約束を取り付けた可能性すらある。

 トランプ大統領は現在、ロシアゲートや不倫もみ消し事件、大統領就任式準備委員会の不正など様々な疑惑追及にさらされている。しかも民主党が下院の多数派を握ったことで、弾劾の可能性が現実味を帯びてきている。このため、シリアからの軍撤退を発表することで、こうした厳しい追及を逸らす意図もあるかもしれない。

 エルドアン大統領にとってみれば、米軍の撤退で目の上のコブが消え、シリアに侵攻し、最大の懸案だったクルド人の勢力拡大に歯止めを掛けることが可能になる。トランプ大統領が米国に居住している政敵のイスラム指導者ギュレン師を強制送還してくれる、という期待もあるだろう。カショギ氏殺害事件の追及をやめても十分お釣りがくる計算だ。

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