世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月4日

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 2019年1月15日、メイ首相がEUとまとめ上げたBrexit合意案が、英国議会で、大差で否決された。この敗北の後、メイ首相がどういう行動をしているのかは定かではない。各政党と協議して、議会が同意出来る離脱の案を探るということであったが、そのような案が短期間のうちに見つかる筈もない。

(dzubanovska/NiroDesign/tiero/iStock)

 そもそも、野党労働党のコービン党首は、メイ首相との会談を拒否している。1月17日、彼はメイ首相に手紙を書き、協議の前提として、メイ首相が「no-deal Brexit」の可能性を排除することを要求した。同じ手紙で、彼は、意味のある議論はメイ首相の「従来のレッド・ライン」(換言すればメイ首相が纏めた離脱合意の基本路線)を基礎には行い得ないとも述べている。 

 メイ首相は、コービン党首に返書を送り、「no-deal Brexit」を排除する権能は政府にはないという当然の回答をした。メイ首相は、依然としてメイ首相の纏めたBrexit合意が唯一テーブルの上にある案であり、何等かの修正をするとしても、これを呑まなければ「no-deal Brexit」だという瀬戸際政策を暫く続けるのではないかとの印象である。それは、議会と同時にEUをも相手とする瀬戸際政策であり、あわよくばEUから何等かの譲歩を取り付けたい(「backstop」を離脱協定から削除せしめられれば最善)ということであろう。こういうやり方にコービン党首が反発している訳である。 

 メイ首相は、時期を失しないうちに、3月29日の離脱時期の延期を、EUに要請すべきであろう。議会では保守党のニック・ボールズ議員が、「no-deal Brexit」の阻止を狙って政府に離脱時期を延期することを法的に強制する法案を提案していると伝えられる。議会に言われて延期を要請するのでは、外交権の喪失と言わないまでも失態である。 

 その上で、英国は、再度の国民投票に向けて動かざるを得ないのではないか。他に出口はないだろう。1月18日付の英Times紙は、「心の底から我々は英国が残ることを望んでいる」という書簡を掲載した。ドイツのクランプ=カレンバウアーCDU党首による土壇場の訴えである。彼女だけでなく、SPDや緑の党の首脳、財界首脳、ロック・スターやピアニストも署名している。書簡には、「我々は英国がいなくなると寂しい。伝説的な英国人のブラック・ユーモアが聞けなくなり、仕事帰りのパブでのエールの一杯がなくなると寂しい。ミルク入りのティー、道路の左側をドライブすることがなくなると寂しい」というくだりもある。英国としては、今になって思い止まるのは決まりが悪いかもしれない。国民投票には大きなリスクもある。しかし、このような状況では、今一度、国民が残留を決めるしかないのであろう。 

 世論は変わって来ているのだと思う。国民投票の実現には、野党労働党の賛成も必要かもしれない。1月17 日、コービン労働党党首は、演説して「来週労働党が提案する案が拒絶され、英国が“no-deal”の惨事に直面するとなれば、国民投票を含む他のオプションを検討する」との趣旨を述べ、なかなか煮え切らない。しかし、いずれ彼も決断せざるを得ないだろう。それ以外、良い出口は見つかりそうもない。

 実際、2016年の国民投票でのBrexit可決以降、英国内では、政治も、経済も、先が見えない混乱状態である。安定性や将来の希望が見えなければ、国民も、EU離脱の問題を身に染みて感じ、世論は、EU残留に傾くのではないか。そういう調査結果もある。

 それの1つの表れが1月15日の下院の議決結果である。メイ首相のEU離脱案が否決されることは予想されていたが、これほどの大差は、まさにメイ首相の敗北だった。

 既に3年目に入るが、英国での再国民投票は、おそらく英国民のみならず、EU諸国が歓迎するものとなろう。そしておそらく世界各地でも安堵感がもたらされるかもしれない。
 

  
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