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2019年8月9日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 日本と韓国の対立が一段と激化、行き着く先が見えない。事の発端は経済産業省が韓国に対して半導体製造の材料に関する輸出規制を強化したことだったが、韓国側は元徴用工問題に絡んだ報復措置だと反発、撤回を求めた。その後、韓国では日本製品の不買運動、日韓の市民レベルの交流の中止、韓国人観光客の日本旅行取りやめなどが起きている。

 炎上している両国関係の行方が気掛かりになっていたところ、経産省は8日、輸出規制を強化して韓国向け個別審査を求めていた半導体材料の一部の輸出を許可したと発表、この姿勢が対立を和らげるきっかけとなるかどうか。

(Barks_japan/gettyimages)

首脳会談の見通し立たず

 ここまで関係が悪化すると、安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領のトップ会談でしか打開の道はないように見えるが、安倍首相は「韓国は日韓請求権協定をはじめ国と国との約束を守ってほしい」と述べ、首脳会談の見通しは立っていない。

 トランプ政権は一時、ポンペイオ国務長官が仲裁の役を買って出ようとしたが、結局、日韓の2国間の話し合いで解決してほしいとして、積極的な橋渡しはしなかった。

 そうした中、安倍政権は8月2日、韓国の輸出管理が適切に行われていないとして、輸出管理手続きで優遇する「ホワイト国(優遇対象国)」リストから韓国を除外する閣議決定をし、今月28日から施行される。ホワイト国除外になると、武器に使われる懸念のある化学物質、炭素繊維などの先端素材、工作機械といった幅広い品目の輸出に原則、個別の認可が必要になり、2000品目程度が対象となる可能性がある。これまで数日で認可されていたのが、期間が長く掛かることになる。ただし、管理のしっかりしている企業には優遇措置を与えることもある。

安全保障では譲れない

 経産省が輸出手続きを厳しくした、半導体製造材料の3品目(レジスト、高純度フッ化水素、フッ化ポリミイド)は半導体、有機ELパネルの生産に不可欠なもので、日本企業が高いシェアを持っている。

 IHSマークイットジャパンの杉山和弘主席アナリストは「フッ化水素は日本から韓国に輸出された後、第三国に輸出されて行方が分からず、『北』に流れている可能性もあるとも言われている。こうした材料はテロや武器に使われる恐れのある安全保障に係る問題なので、韓国が歩み寄らない限りこの問題は収まらない。今回、経産省が一部の製品の輸出許可を30日程度の審査で出したことは、今回の措置が輸出禁止でないことを明示しており、良かったのではないか」と述べた。

 日本からの材料を購入して半導体を製造してきたサムスン電子などにとってこうした部品の輸入手続きに時間が掛かると円滑な調達ができにくくなり痛手になる。ほかの国から買いたくても日本への依存度が8~9割と高いため、すぐには代替できる国がない。

 文大統領は国産化を急がせようとしているが、国産化には、2~3年でできるものもあるが、歩留まりが良いものを大量生産できるようになるには多くは5~10年掛かるといわれる。

 楽天証券経済研究所の今中能夫チーフアナリストは「今回の輸出審査の厳格化はいまある制度を使っただけで、日本は妥協する余地はまったくない」と主張する。

 韓国メーカーの国産化については「仮にできたとしても、その時には次の世代の新しい技術に代わっている可能性もある。サムスンが最新鋭の半導体を作れないとなると、ほかの半導体メーカーのものに置き換わるきっかけにもなりかねない。サムスンはこうした事態を恐れて、米国に半導体工場を建設するのではないかという観測記事も出ている」と指摘する。韓国経済を代表するサムスンの先行きが危うくなれば、経済全体への打撃は大きくなる。

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