赤坂英一の野球丸

2019年8月14日

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〝3年生全員入場行進〟

 そんなダルビッシュの主張と逆行するかのような大がかりな開会式が、実は今年の広島県大会で、マツダスタジアムのグラウンドで行われた。広島県以外のファンにはほとんど知られていないだろうが、通常はベンチ入りメンバーだけに限定されている91校の入場行進に、補欠の3年生部員全員と女子マネージャーが加わり、一緒に広島カープ本拠地のグラウンドを歩いたのだ。

 この〝3年生全員入場行進〟の発案者は、広島の強豪・広陵の中井哲之監督である。

 「控え選手も入場行進ができたらいい。3年間、頑張ってきたことへのご褒美。グラウンドを歩くのと歩かないとでは、今後の人生も変わってくる。入場行進のとき、毎年、広陵だけではなくベンチに入れずスタンドに座る3年生を見て胸が痛かった」(デイリースポーツ 2018年3月12日付)

 昨年、自身が会長を務める広島県高校野球監督会でそう提案したところ、高陽東・沖元茂雄監督をはじめ監督たちが賛同。中井監督や沖元監督らが県高野連やマツダスタジアムを本拠地とするカープにも働きかけ、昨年夏の県大会から実地する予定となっていた。

 ところが、昨年は西日本豪雨の災害により、県大会が全国で最も遅い10日遅れとなったため、開会式を簡略化せざるを得ず。会場もマツダスタジアムではなく三次市の三次運動公園野球場に変更され、開会式と入場行進に参加したのは、ここの1回戦で対戦した広陵と千代田の2校のみ。球場に半旗が掲げられ、豪雨災害の犠牲者に黙祷が捧げられたのち、チームからひとりだけ参加していた安芸南の主将が選手宣誓を行った。

 「私たち一人ひとりにとって、選手権大会は、一回きりのかけがえのないものです。どんな状況も克服し、それを乗り越えて挑戦します。それが野球だから」

 あれから1年、ようやく実現した〝3年生全員入場行進〟は広島でどのように受け止められたのか。甲子園の今大会決勝戦で始球式を行う広島商業OB・達川光男さんは、こう言っている。

 「はっきり言うて、賛否両論あったと思うよ。入場行進に参加できてよかったという子供や親御さんがおる一方では、補欠じゃのにふうが悪い(みっともない、カッコ悪い)、恥ずかしかったという人もおるじゃろう。でも、広島では昨年豪雨災害があって、やっとこういうことができるようになって、元気をもろうたと言う人も絶対おる。全員が賛成できるような形は難しいかもわからんが、こういう試みの積み重ねで、より良い方向へ向かえばええんじゃないかな」

 ちなみに、阪神甲子園球場は今年で創立95周年を迎えた。いまから95年前の夏、初めて甲子園(当時は甲子園大運動場)で行われた1924年(大正13年)の第10回大会(当時は全国中等学校優勝野球大会)で優勝したのが広島商だった。これは同校にとっても、甲子園においても、もっと言えば兵庫以西の学校及び全国の実業学校の中でも初の優勝だったのである。その甲子園95周年大会に、広島商が15年ぶり23度目の優勝を果たしたのも何かの因縁だろうか。

 そういう歴史的背景があって、1974年夏の優勝時、広島商の正捕手だった達川さんが始球式に登板することになったのだ。こういう人の言うことには、それなりの重みがある。

 確かに高校野球にはいろいろと古臭い慣習が残っている。が、アレは要らない、コレも捨てろと斬って捨てるのではなく、達川さんの世代とダルビッシュの世代とで意見を交換し、より良い大会のあり方を模索してもらいたい。

◎参考資料
○インターネット記事
共同通信「大船渡の采配『佐々木君の未来守った』ダルビッシュ 登板回避 勇気ある行動」(2019年7月28日配信)

朝日新聞デジタル「僕が監督なら、週2回は休む ダルビッシュの高校野球論」(2018年2月1日5時54分配信)

デイリースポーツWeb版「広陵・中井監督が実現目指す3年生全員入場行進『3年間頑張ったご褒美』」(2018年3月12日配信)

WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』/「高校野球の開会式は10分で済ませるべき」(2018年8月1日配信)

  
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