Washington Files

2019年9月9日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)に続き、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の本格開発に着手している。実戦配備にこぎつければ、アメリカが日本など同盟諸国に提供する「核の傘」を動揺させるのみか、米本土への直接脅威が現実のものとなり、従来の核戦略の根本的見直しを迫られることにもなりかねない。

 米戦略国際問題研究所は8月28日、北朝鮮が弾道ミサイル搭載の新型潜水艦の建造に着手し、SLBM実戦配備をめざしているとの分析結果を公表、そのための発射実験を準備している可能性にも言及した。

(Mirifada/gettyimages)

 現有の北朝鮮の潜水艦についてはこれまで、艦上にミサイル1基を発射できるハッチの存在が米軍衛星写真などから確認されているが、新型潜水艦はその後継艦とみられ、ミサイル数基を艦内に収納したまま発射できる能力を備えているとされる。

 すでに北朝鮮の朝鮮中央通信はさる7月23日、金正恩労働党委員長が新たに建造した潜水艦を視察したと報じている。

 視察の実際の時期やその場所などについては具体的に触れていないが、韓国軍および米国防総省筋の情報によると、東部海岸の新浦(シンポ)でかねてから新型潜水艦建造の動きが伝えられており、ここで最近完成にこぎつけた可能性が高い。また、視察の際に公表された動画によると、従来型の潜水艦とくらべ、かなり大型であることから、同国初のミサイル搭載潜水艦ではないかとみられている。

アメリカの核抑止戦略を根本から揺るがせる

 もし北朝鮮が実際に近い将来、SLBM実戦配備にこぎつけた場合、アメリカのみならず日韓などの同盟諸国にとって、ICBMとは比較にならない深刻な挑戦となり、脅威となる。

 なぜなら、同盟諸国にこれまで提供した“核の傘”含めアメリカの核抑止戦略を根本から揺るがせることになるからだ。

 筆者はかつて米ソ冷戦時代、厚い秘密のベールに包まれた米SLBM原潜基地であるワシントン州バンゴールを国防総省の特別許可で取材したことがある。バンゴールは米海軍が広大な太平洋に展開するミサイル原潜(SSBN)の最大拠点にもなっている。

 約1時間の基地内滞在中にたまたまピュージェット湾沖から大量の水しぶきを上げながら海面に浮上、軍港内係留スポットに接近して来る不気味な黒塗りの1隻の艦体を目のあたりにした。「オハイオ級」トライデントⅡ型SSBN(排水量1万8000トン)で、約6カ月の潜行任務を終え、保守点検と乗務員休息のため寄港したという。

 艦上部の左右両側に12個ずつ合わせて24個のハッチもはっきり確認できたが、取材に立ち会った情報将校から、「有事の場合、それぞれのハッチから1基当たり8個の各個誘導核弾頭(MIRV)が一気に発射できる態勢にある」との説明を受け、1隻だけで広島型原爆の数百倍の破壊力を持つというその現実に戦慄を覚えた記憶がある。

 そして21世紀の今日、アメリカ、ロシアなどの軍事大国のみならず、全体主義国家の北朝鮮がこのSLBM兵器を実戦配備に乗り出し始めたのだ。

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