2024年4月26日(金)

田部康喜のTV読本

2012年5月2日

 スクリーンにデビューする美少女のなかから、スターとなる女優を正確に予言する、作家の小林信彦のひそかな喜びがよくわかる。映画「ALLWAYS 3丁目の夕日」で東北から集団就職で自動車修理店にやってきた星野六子役の堀北真希がスターになる、と確信を込めて書いている。筆者の女優に対する評価は、小林に遠く及ばない。

 武井咲は、薬師丸ひろ子にはなれない、ましてや吉永小百合にも。それがこれまでの筆者の評価であった。「Wの悲劇」をみて、ひょっとしたら、と思う。

少女から大人へ 変化した「声」

 国民的な女優になる条件として、筆者は常々「声」が大切ではないか、と考えてきた。薬師丸ひろ子の映画の挿入歌を初めて聴いたときの衝撃を忘れない。吉永小百合の歌声を聴いた団塊の世代もそうだったのではなかったか。歌手としてスタートした山口百恵の歌声についても同じような感動をいまでも覚えている。

 それはひとことでいえば、「透明な感じ」ということである。

 武井にはそれが欠けていた。デビューのシングルは、華々しい街頭広告を表参道の駅で観て、その歌声も聞いたが、こころに響く透明感がなかった。表現を変えるなら、声が通らないのである。

 「Wの悲劇」を観て、発声法がまったくこれまでと違っている、と思った。それは訓練だけではなく、少女から大人への微妙な時期を通過した女優の声であった。

 戦前から戦後にかけて、子役、少女そして大人の女優として、それぞれのステージで開花した、高峰秀子も語っている。娘から大人の女優への転換が最も難しく、子役で終わってしまう俳優は多い、と。

 武井咲「Wの悲劇」が、薬師丸ひろ子「Wの悲劇」のような成功を収めるか否か。

ドラマのリメークとオマージュ

 その時代の美少女を起用したドラマのリメイクは、同じ役を演じた女優へのオマージュ(敬意)がある。「伊豆の踊子」は、田中絹代への。美空ひばり、鰐淵晴子、吉永小百合、内藤洋子、山口百恵が演じた。

 武井「悲劇」もまた。演出の片山修は、「木更津キャッツアイ」で薬師丸ひろ子をあさだ美礼先生役とした。今回のドラマのなかで、薬師丸が映画の主題歌として歌った「WOMAN“Wの悲劇から”」を挿入歌として、平井堅に歌わせている。

 片山は1965年生まれ、「谷間の世代」である。 (敬称略)

修正履歴
1ページ目最終段落
「NHKの大河ドラマ「平清盛」では、頼朝と義経の母であり、清盛の側室となる常盤御前を演じている。」は 「NHKの大河ドラマ「平清盛」では、清盛の側室となる常盤御前を演じている。」の間違いでした。お詫びして訂正致します。該当箇所は修正済みです。(2012年5月12日10時40分)

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