渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年11月5日

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渡辺将人 (わたなべ・まさひと)

北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授

1975年生まれ。シカゴ大学大学院修了。米下院議員事務所、H・クリントン上院選本部、テレビ東京報道局「ワールドビジネスサテライト」、政治部記者、コロンビア大学、ジョージワシントン大学客員研究員を経て現職。専門はアメリカ政治。著書に『分裂するアメリカ』『オバマのアメリカ』(ともに幻冬舎新書)、『評伝バラク・オバマ』(集英社)、『見えないアメリカ』(講談社現代新書)、『現代アメリカ選挙の集票過程』(日本評論社)、共著に『オバマ政権のアジア戦略』(ウェッジ)、『オバマ・アメリカ・世界』(NTT出版)など。

 オバマ陣営は選挙前の最後の週末に巨大な規模のGOTV戦略(動員活動)を展開した。投票率を上げるための選挙直前の動員作業を「ジーオーティービー」GOTV(Get Out the Vote)活動と呼ぶ。基本的には選挙用語、政治用語であるが、アメリカ社会では一般にも浸透している略語だ。元ゴア陣営選対本部長にして民主党系ストラテジストとして著名なアフリカ系女性、ドナ・ブラジルが30年間以上の政治生活のなかで「最大のGOTV」とまでメッセージを出していることが、オバマ陣営の「投票率」へのこだわりを象徴している。

選挙直前GOTVとアメリカのElection Dayとは

 選挙直前の最後の週末をアメリカの選挙用語で「GOTV Weekend」と呼び、ドブ板的な動員を行う。大規模な人海戦術を展開するので、人手が足りず本部スタッフまで路上にかり出されることがある。2000年にヒラリー(連邦上院)とゴア(大統領選挙NY州支部)の合同キャンペーンで、アジア系アウトリーチ担当として、エスニック・イベントの企画やメディア対応していた際、筆者も30歳そこそこの上司と共に、GOTV ウイークエンドだけは、本部のオフィスのデスクから引きはがされ、時間交代で戸別訪問(キャンバシング)、電話作戦(フォーンバンク)など「地上戦」の最前線に合流した。

 動員作戦は、有権者登録の締め切りまでは登録促進が大切な仕事なのだが、直前のGOTVでは、戸別訪問、電話作戦が再び強化される。実際に投票所で投票してもらうために選挙当日まで最善を尽くす。当日は、投票所までの車の送り迎え(ライド)、投票所までの沿道の案内役(ビジビリティ)、投票所の見張り役(ポール・ウオッチング)などに陣営はボランティアを投入する。

 大統領選挙はあくまで「Election Day」の対象の1つであり、アメリカの選挙日には同じ用紙あるいはパネルで、改選対象の知事、改選対象の連邦上院議員、すべての連邦下院議員、郡レベルの公職にいたるまで投票が行われる。我々はつい「大統領選挙日」と思いがちだが、アメリカの有権者にとっては「選挙日」である。

 大統領選挙の応援遊説に繰り出しているのは、比較的再選が安定している選挙区の議員が多い。かなりの議員や知事が自分の選挙も同日に抱えている。大統領選挙は「全米レベル」のイベントの印象があるが、投票行動そのものは、かなりローカルな色彩がある。

 「大統領選挙では、好きな候補がどちらにもいないが、大切に育ててきた応援している下院議員に今回も投票するため、投票所には絶対に行く」という人もいる。そこでついでに大統領選挙にも投票してもらう、あるいはその逆を誘導するのも大切な動員戦略だ。大統領選挙と中間選挙の動員戦略の違いはここにある。アメリカの選挙陣営が、概ね大統領選挙の州支部と知事選や上院選の本部などが「合同」態勢(コーディネーティド・キャンペーンと呼ぶ)をとっているのも、相互作用を生むためだ。民主党としては、連邦議会で理想論では下院奪還、現実論ではせめて上院で多数派維持しなければ、オバマ再選でも政権運営は険しくなる。

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