2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年5月22日

 張氏は手記の中で、人民日報論文の主眼は「尖閣諸島は古来、台湾に属する中国領土であり、日本は日清戦争に勝利した勢いに乗じて、同諸島を窃取した」と主張する点にあり、琉球の帰属問題は「傍証」と説明した。

 また、琉球再議論は歴史学者としての問題提起だとし、日中両国のメディアやネチズンの過熱ぶりに当惑を隠さなかった。そして再議論すべき論点を列挙して、沖縄の人々の意思が尊重されるべきと強調。中国の「沖縄奪還論」や日本の「中国脅威論」の双方をともに批判した。

8年前から登場していた沖縄の帰属未定論

 沖縄の帰属未定論が中国でとりざたされ始めて久しい。2005年8月1日発売の中国誌「世界知識」には北京大学歴史学部の徐勇教授の論文が掲載されている。沖縄が日本の領土となったのは琉球王国に対する侵略の結果であり、米国から日本への沖縄返還も国際法上の根拠を欠くとする論旨は、人民日報論文と同じだ。

 05年は戦後60年であり、小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝などで日中関係が悪化し、春には中国全土で反日デモが起きていた。

 こうした“学説”は日中関係が悪化した時期に数多く表れる。2010年9月の尖閣沖・中国漁船衝突事件の後には、中国商務省研究院の日本研究者、唐淳風氏が環球時報などに執筆。今年3月と5月の「世界知識」には、復旦大学の国際関係公共事務学院所属の雷玉虹氏が執筆していた。

日本は冷静な対応を

 張海鵬氏らの論文は、中国共産党機関紙、人民日報に大きく掲載されたため「中国指導部の意向か」と特に注目された。指導部が尖閣宣伝の格上げを支持した可能性はある。

 しかし、1879年の琉球処分から既に130年以上が経過。中国政府は72年の日中国交正常化の際も、その後も、沖縄の帰属未定論などは持ち出してはいない。沖縄には米軍基地があり、米国務省のベントレル報道部長は論文に関し「米国は沖縄に対する日本の主権を認めている」と即座に反論した。

 こうした現実を見れば、中国政府が自ら琉球帰属未定論を主張したり、沖縄を侵攻する恐れはほぼないだろう。尖閣対立が長引く中、いらついた中国が帰属未定論によって揺さぶりをかけてきた。冷静に反論しておく必要はあるが、過剰に反応すると、かえって中国内のタカ派を喜ばせることになりかねない。

[特集] 習近平と中国 そして今後の日中関係は?

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