世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年6月13日

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 ブラーマ・チェラニー(ニューデリーの政策研究センター教授)が5月9日付WSJに、「北京の威圧外交の勝利;インド自身の領土からの撤退と交換に、中国はニューデリーから多くの軍事的な譲歩を勝ち取る」と題する論説を寄稿し、シン政権の対中弱腰外交を厳しく批判しています。

 すなわち、5月6日にインドは、中国部隊がヒマラヤの国境地帯から撤退すると発表した。インドの政治家は関係正常化を祝い、静かな外交の勝利だとした。しかし、実際は、今回のデサン高原(チベットと新彊へのアクセス・ルートで、中国・パキスタン間のルートにあたる)での対立は、インドの戦略的立場を深刻に弱体化した。中国は何も価値ある譲歩はしていない。

 この紛争は、中国の強制外交とインドの無気力さの、よい研究材料となる。中国は4月中旬、ヒマラヤの事実上の境界を20km越えた。奇襲や軍事的エスカレーションのリスク無視など、中国の瀬戸際政策の特徴がみられる。何よりも、タイミングが良く選ばれている。インド政府は国内的にかつてないほど弱く、危機への対応はふらついていた。

 50人の小隊の配備で、北京は交渉ではとても得られない軍事譲歩を得た。撤退の見返りに、インドは前進監視所を廃止し、塹壕やその他の防衛要塞を破壊した。他方、中国は国境での攻撃力を引き続き強化し、警告なしに攻撃し得るようになった。

 過去10年間、自己主張する中国は「核心的利益」の名のもとに、インドのヒマラヤ領土を着実に侵犯してきた。この戦術は日本、ベトナム、フィリピンとの領土・海洋紛争にも適用されている。インドのしっかりしない対応は、これらの国にとって、中国にはどういう対応をすべきではないかの教訓となるべきである。

 インドの失策は、3年前に国境警備を軍から国境警察に移したことに始まった。最近の侵犯について、政府は1週間沈黙し、その後、愚劣な措置とともに、それを明らかにした。シン首相は「局地的な問題」と呼び、フルシド外相は中印関係という美しい顔にでてきたニキビの様なもので、軟膏をつければよい、「事件はおこるものだ」と述べた。

 北京が対決を続けたら、中国の李克強首相の5月20日の訪印はキャンセルになっただろう。中国に外交上のコストを支払わせることがインドの利益になる。しかるに腐敗にまみれたインド政府は、強硬に出ることや降伏が敵を増長させることを考える余裕がない。

 その結果、中国が挑発について国際的逆風の中に置かれそうになりつつある時に、インドが弱い対応をしてしまった。兵力を増強し、中国に考えさせるのではなく、侵略者に報償を与えている。多分、李の訪問準備として、フルシド外相が訪中するために、決着を急いだのではないか。

 皮肉なことに、最近の中国の指導者のすべての訪印の前には、中国の新しい攻撃的な動きがある。胡錦涛の2006年訪印の前には、オーストリアの大きさのアルナチャール・プラデッシュへの領土要求が出されたし、温家宝の2010年の訪問の前には、カシミールへのインド主権が新しい査証政策で挑戦された。そして今回の侵犯である。

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