チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年12月18日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 問題の背景には、中国国内の強硬派の圧力がある。近年、中国空軍内部に不満があるとされているが、主要な理由の一つが予算配分だと見られる。中国海軍は、多額の費用をかけて訓練空母「遼寧」を就役させ、更に実運用のための空母及び空母戦闘群を形成する大型艦艇の導入を計画している。こうなると、空軍の予算が制限される。中国の国防予算も無限ではないのだ。許其亮・空軍上将を中央軍事委員会副主席に抜擢したのは、強いリーダーシップを空軍内に残したくなかったからでもあり、予算面で優遇できない分を人事でバランスをとろうとしたからでもあると聞く。

 しかし、昨年9月11日以降、活躍が報じられるのはやはり海軍ばかりである。ただでさえ、中国国内には人民解放軍の一部を含め、対日開戦止むなしという強硬派がいる。強硬派が軍内の不満と結びつけば更に危険だ。中国指導者は、こうした国内の圧力を受けつつ、軍事衝突を避けるという綱渡りをしていると言える。

 こうした中、日本の無人機撃墜検討等は、中国強硬派を勢いづかせるものだった。日本が軍事力行使の意図を明確にしたと捉えたのだ(前回記事『中国に抑止は効いているのか』参照)。中国指導部は、日本に対話の意志は無く挑発を繰返すだけなので、日本を相手にし続けるのは危険だと認識している。日本の態度が中国国内の強硬派に、更に挑発的な行動をとるための口実を与えるからだ。日中がこれ以上挑発的な行動をとれば、不測の事態を招きかねない。中国にとって優先順位の高い問題は国内にあり、日本及び米国との軍事衝突は避けねばならない。中国では、「強硬派は習主席の真意を誤解している」という話も聞く。

「対立」を前面に出してでも、
米国との議論を試みる

 そこで出て来たのは、やはり米国との議論である。中国のADIZ設定の発表がバイデン米副大統領訪中の直前であったことは、米国ファクターの存在を示唆している。11月下旬には、中国中央電視台のニュース番組が、主たる相手は米国であることを示唆する報道をしている。米国が第2次世界大戦時に作成したフィルム「敵を認識せよ-それは日本」をこの時期に報道したのも、日米が必ずしも対等な協力関係にないということを示したかったからだ。日本はただ米国に使われているに過ぎないので相手にする必要はない、という論理である。相手にすべきは米国であり、しかも、東シナ海の問題だけでなく、国際秩序の再構築を目指すという。

 中国は、今年4月頃から米国と「新型大国関係」構築の議論をしてきたが、6月の首脳会談で、相容れない戦略の相違も明らかになった。そこで、今度は対立を前面に出して、米国と国際秩序再構築の議論を試みる。そのきっかけとして、ADIZというカードを切ったのではないだろうか。と言っても、米国が乗ってきてくれなければ困る。そこで、既に決定されていたバイデン副大統領訪中の直前を選んだのだ。

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