テロに脅かされるソチ五輪
制圧に躍起になるプーチン


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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ソチ五輪の開幕が2014年2月7日に迫っている。プーチン大統領の肝いりのプロジェクトであり、氏は大統領2期目になりふり構わぬ誘致活動を行ない、開催権を勝ち取った。ソ連時代にはアフガニスタン侵攻の余波で西側諸国のボイコットにより体をなさなかったモスクワ五輪の汚名を晴らし、ロシアの大国としての立場を世界に確固たるものとして打ち立てると共に、自身の国内外での存在感を高めようとしたのは間違いない。

 さらに、ソチ五輪開催の背景には、地域差が目立つロシアの発展後発地域をもり立て、ロシア全土を近代化していく政策の一環とするという思惑もある。そのため、プーチンはソチ五輪をなんとしても成功させると共に、歴史的に語り継がれるものとすることに躍起となっている。だからこそ、汚職などで無駄に消えている多額の費用があるとはいわれているものの、その準備額は史上最高の5兆2000億円超1といわれ、史上初の試み満載の聖火リレー(北極点、水中、宇宙、川でのリレーや史上最高年齢ランナーなど)や豪華な施設に大きな注目が集まっているのだ(拙稿エコノミスト『リポート:オリンピックと地域紛争』2014年1月28日特大号参照)。

 また、最近では、プーチン政権の同性愛者に対する弾圧や人権侵害に対する国際的な反発に対し、ミハイル・ホドロコフスキーやプッシー・ライオットのメンバーをはじめとした多くの人々に恩赦を与えたり、一度は禁止していたオリンピック会期中のソチでの抗議活動や集会の規制を緩和し、条件付きで容認する大統領令を出すなど、明らかに欧米の評価を睨んで対応を軟化させている。ただ、それによって欧米の首脳陣の対露姿勢に変化はないことも付記しておくべきだろう。

ソチ五輪の最大の懸案・テロ

 このように、ソチ五輪の成功と国内外からの五輪及び自身に対する高評価の獲得に躍起になっているプーチン大統領にとっての目下の最大の懸案はテロである。ソチが位置するロシアの北コーカサス地域はダゲスタン、チェチェン、イングーシ、カバルダ・バルカルなど、イスラーム過激派の反政府勢力が台頭している極めて不安定な地域であり、テロなどが頻繁に起きている。次ページ表1のように、ロシアではこれまで北コーカサス関連とされるテロが数多く起きてきた。2

1:ロシア当局は、「五輪史上最高の巨額開催費」という批判を避けようとしているようで、五輪開催費と五輪後も残る鉄道や発電所などインフラの整備費を区別しようとしている。具体的には、ドゥボルコビッチ副首相が「五輪に費やすのは70億ドル(約7300億円)だけで、それ以外は地元住民のインフラ整備に使われた」と述べ、プーチン大統領も、五輪の準備費用は約6600億円と述べている。

2:拙稿「ソチ・オリンピックを見据えた北コーカサスリゾート計画と欧米の動き」「ロシア政権が恐れる北コーカサス問題と民主化ドミノ」「ロシア空港テロ事件 ―― その背後にあるもの」「モスクワ暴動 ―― 高まる民族主義の危険」「プーチンの威信をかけたソチ冬期五輪まで1年~遅れる会場建設、テロ対策、マフィア抗争…課題は山積み」も参照されたい。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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