2024年4月27日(土)

個人美術館ものがたり

2009年5月16日

再現された荻須のアトリエ

 美術館は稲沢市による設立だ。展示作品は、荻須自身が、自分の画業を若いころから晩年まで見渡せるようにと、寄贈した作品がベースとなっている。画家の死後も、遺族からさらに作品が寄贈された。建設地が決ったとき、帰国中の本人も場所を見たが、完成した美術館はついに見ていない。少しでも絵を描きたいと、日本に戻らなかった。パリでは芸術家のためのアパルトマンの一室をアトリエに借りて、住居は別のところにあった。亡くなったとき、いつも帰る時間に帰らないので、夫人が見に行ったら、荻須はアトリエで倒れていたという。夫人が最期に聞いたのは「筆を洗っておけ」という言葉だった。正に剣を片手に、前のめりに倒れて息絶えた、というシーンに見えてならない。

 美術館には、そのパリでのアトリエが再現されている。そんなに広いものではないが、北側がほぼ全面の高いガラス窓だ。部屋の半分が中二階になっている。置かれている家具類はわずかだけど、いずれも実用していたものだ。ぼくは実際に同種のアトリエを見たことがあるので、パリに漂う空気というものが、髣髴(ほうふつ)とする。窓の外は残念ながら広がってはいないが、実際にはその窓の外に、パリの街並が広がっているわけである。

【稲沢市荻須記念美術館】

稲沢市に生まれた荻須高徳(1901〜86年)の作品を展示する美術館。稲沢市が1983年に開館。油彩画を中心に展示する常設展示室2室と、水彩画や素描、愛用のパレット、絵筆などを展示する資料展示室があり、1年に1回展示替えをする。設計は一般公募441点の中から選出、96年、復元したアトリエ施設(パリで33年から86年まで使用)が同じ設計者の手により増設された。国内美術館が所蔵する荻須作品のデータベースとともに、自由に閲覧できる荻須以外の美術図書も充実。また、個人や団体が利用できる一般展示室もある。

<住> 愛知県稲沢市稲沢町前田365-8
<電> 0587(23)3300
<開> 9時30分〜17時(入館は16時30分まで)
<休> 月曜(祝日および振替休日の場合は開館)、祝日の翌日、年末年始、はだか祭の日
<料> 一般310円


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