WEDGE REPORT

2014年4月13日

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杉山大志 (すぎやま・たいし)

IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者

1991年東京大学理学部物理学科卒業。93年東京大学大学院工学研究科物理工学修士了、(一財)電力中央研究所入所。国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、国際学術会議科学執行委員、京都議定書CDM理事会パネル委員、産業構造審議会専門委員、IPCC第四次評価第三部会及び統合報告書主著者を経て、現職。(一財)電力中央研究所上席研究員。

 「気候変動枠組条約」に関する記述と、「所得区分別の排出量」に関する記述の2点を巡って、先進国と途上国の対立が先鋭化した。

 途上国にとって、気候変動枠組条約は南北問題を踏まえており、先進国の責任を追及しやすいので、肯定的に見てきた。先進国は、まさにその点を問題視しており、途上国にも排出削減の負担を負わせようとしてきた。今回もこの対立構造が現れた。

 所得区分別の排出量が争点になったのは、そのような記述をすると、中所得の新興国、とくに中国の排出が急増してきたことがはっきりして、おなじ「途上国」に分類されるとはいっても、最貧国とは全く違うことが明らかになってしまうからである。

 中国などの新興国は排出削減の義務を負わされることを警戒してこのような記述に反対した。先進国は、逆の立場から、その記述に賛成した。この2点についてはもともとの原稿には詳しく記述してあったが、最終的に採択されたものからは記述がほとんど削除されてしまった。

政治と科学の出会う場所

 今回、報告書に圧力をかけたのは、上述の先進国・途上国の対立構造だけではない。イギリス・ドイツなどの欧州諸国は、2度シナリオについて前向きに書くように強く求め、それは随所に反映された。このように、IPCCは、建前は科学的な報告書ということになっているが、上述のように、実際にはかなり政治の影響を受ける。

 ただしこの交渉対象となっているのは「要約」部分であって、「本文」までは交渉対象にならない。このため、要約部分は政治的にずいぶん書き換えられてしまうが、「本文」は比較的政治の影響を受けずに公表される(正確には「要約」は「政策決定者向け要約=Summary for Policy Makers: SPM」といい、「本文」は16章にわたる「本文」および「技術的要約=Technical Summary: TS」という)。

 じつはシナリオは報告書の一部にすぎず、2000ページにわたる「本文」には、今後の温暖化対策を考えるうえで有用な情報が満載されている。これについてはまた稿をあらためてご紹介したい。

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