2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2014年4月13日

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、4月13日、ドイツ・ベルリンで開催された総会で新たな報告書を発表した。筆者は、日本から唯一人、統括執筆責任者として参加した。

杉山大志氏(第5次評価第3部会総括執筆責任者)

 今回のIPCC報告書では、「地球温暖化を2度以下に抑制するシナリオ」(以下、2度シナリオ)について詳しく報告されている。

 一部報道では、「IPCCは、2度シナリオは実現可能であり、世界はそれを目指すべきであると提言した」というものがある。だがこれは間違いである。IPCCは「提言」はしていない。そもそも提言することは禁じられているからである。IPCCは、2度シナリオとは、どのような技術的対応を意味するかということ、および、その実現のための前提条件について記述している。

 あるいは、「2度シナリオは再生可能エネルギーなどによって技術的にも実現可能であり、経済全体からみればコストも安く済むことを示した」という報道もあるが、これも誤りである。2度シナリオの実現のためには、現状からみると、技術と政治の両面で奇跡的ともいえる変化が必要である。これは不可能ではないが、決して容易ではない。以下に説明する。

2度シナリオとは

 IPCC報告では、いわゆる「2度シナリオ」が注目を集めている。その骨子は以下のとおりである。

1.地球温暖化を産業革命前に比べて2度以下に抑制することは、おおむね、2050年までに世界全体で2010年時点に比べて40〜70%の排出削減を意味する。このとき、再生可能エネルギー、原子力、CCS(発電所などから排出されるCO2を地中に埋める技術、carbon capture and storage)の合計による低排出エネルギー供給は2010年時点の3倍から4倍に達する。

2.このような2度シナリオが実現するための条件は、世界の国々が一致協力して排出削減に取り組むこと、および、多くの温暖化対策技術が進歩し普及することである。つまり国際協調と技術革新の両者が条件となる。

 前述したように、IPCCは、政策を分析することを義務付けられているが、政策提言は禁止されている(be policy relevant without policy prescriptive)。今回も2度シナリオを提言したのではなく、2度シナリオが実現するための条件を検討して提示した。

2つの前提条件

 ここから先、どのような判断をするかは政治に委ねられる。上記の1点目は分かり易いが、2点めについては説明がいる。「国際協調と技術革新の両者」とは、どういうことだろうか?


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