科学で斬るスポーツ

2014年8月21日

»著者プロフィール
閉じる

玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

図1 投手のしなりがもっとも大きい時(最大外旋位)に肩やひじには大きなストレスがかかる。最大外旋位は剛速球投手では150~160度を超えることがある。 (提供:筑波大・川村卓准教授)拡大画像表示

 図1を見て欲しい。

 前腕が最も後方にしなっている状況は「レイバック姿勢」と言われ、前腕が後方に最も強く引っ張られる瞬間である。上腕の振りの加速が大きいほど、この力は大きくなる。大まかにいうと、剛速球投手ほど、腕のしなりは大きくなり、それだけ後ろに引っ張られる力も大きい。

 この時、重要なのは、理にかなった投球動作をすることである。正しくないフォーム、例えば、肘が両肩を結んだ線より下がっていたり、前腕が肩から遠く離れすぎたりすると、肘への負担はさらに大きくなってしまうからだ。

田中投手の肘の故障原因と治療法は?

 田中将大投手が傷めた、内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)の部分断裂とはどういうものか。内側とは肘の内側というものだ(図2)。

図2 内側側副靭帯のある部位(参照:『「野球医学」の教科書』(ベースボール・マガジン社))

 上腕は上腕骨一つだけだが、前腕には尺骨と橈骨(とうこつ)という二つの骨がある。尺骨は手のひらを上に向けた時に内側にある骨で、この尺骨と上腕骨を結びつけているのが内側側副靭帯だ。この靭帯は、細かくいうと3つからなるが、投球で最も傷めやすいのが前束(前斜走線維)だ(図3)。正常な靭帯は、強固な線維の束となっているが、度重なる酷使で線維が切れてしまったり、ほぐれて広がったりしてしまうと痛みを伴ってしまう。注意しなくてはならないのは、痛みがなくても損傷は進んでいることがあることだ。

図3 内側側副靭帯の模式図。青い矢印が靭帯の前束(参照:『カラー人体解剖学』(西村書店))
拡大画像表示

 「最新のMRI(磁気共鳴画像診断)で判明することも少なくない」と筑波大附属病院水戸地域医療教育センターの馬見塚尚孝講師(整形外科医)は語る。馬見塚さんは、筑波大野球部部長を務める一方、『「野球医学」の教科書』(ベースボール・マガジン社)を執筆し、ジュニア野球選手の野球肘などの故障を回避するための指導法の在り方に一石を投じている。

 田中投手の故障は、この前束の靭帯の部分断裂とされる。同じ部位を損傷した松坂、和田、藤川らが受けた肘靭帯再建術(いわゆるトミー・ジョン術)を選択せずに、自らの血液から血小板が多い部分を集めて注射する「多血小板血漿:PRP(Platelet Rich Plasma)療法」を選んだ。

編集部おすすめの関連記事

関連記事

新着記事

»もっと見る