世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年10月28日

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 第一に、英国が、覇権国になりそうなナポレオンのフランス、ドイツ、ロシアに対抗し、オフショア・バランサーとして対立連合を形成し、重要な役割を果たしたのは事実ですが、これは、対抗する相手も連合する相手も、国家理性を持つ民族国家であるからできたことです。

 ISISは、領域国家を目指していますが、普通の民族国家というより、ヤジド派をジェノサイドで脅すような犯罪集団、罪のない有志連合の市民を殺すよう叫ぶテロ集団です。これを「壊滅」させるべきである、とのオバマの目標は、脅威の性質に鑑み、的を射ています。ISISをバランス・オブ・パワーの一つの柱になりうるかのように扱うのは、この怪物的存在に成長の機会を与える可能性があり、適切ではないように思います。むしろ、「イスラム国」が支配領域を失い、資金力も軍事力も通常のテロ組織並みになれば、その脅威も管理可能になるでしょう。

 第二に、欧州と中東は異なり、かつての英国のようなオフショア・バランス政策が上手くいくか、疑問があります。中東では、ユダヤ、ペルシャ、アラブ、トルコの4民族が覇を争っているようなところがありますが、それをバランスさせる必要があります。しかし、米国はユダヤに傾き、ペルシャに対しては強い警戒心を持っています。英国が欧州で永遠の友人も敵も持たなかったのとは状況が異なり、米国の姿勢については、地域諸国は良く知っています。米国には、良いオフショア・バランサーになれるような、地域諸国との信頼関係はないのではないでしょうか。米国は、中東和平の仲介もできていません。

 第三に、オフショア・バランス論というのは、世界における米国の役割を縮小する提言とも言えます。国は力に余るようなことをしようとしてはなりませんが、ISIS攻撃は米国の力の範囲内のことです。ISIS対策については、空爆だけではISISに壊滅的被害を与えられない、地上軍が必要である、とオール・オア・ナッシング的な議論をして、地上軍を投入できないならば一切の軍事介入をすべきでない、というような主張をする人もいますが、完全を狙って何もしないというのでは、ISISの脅威を放置することになります。地域諸国の地上軍、CIAが訓練している自由シリア軍も、全くあてにならないということでもないでしょう。

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