2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年3月27日

 他方、イラク・アラブは、まともに統治できない期間が長引けば長引くほどクルドの統治を阻止する権利を失っていく。イラク・クルドの分離独立は中東で先例を作ることになろう。イラク・クルドは、自らの国を欲し、自らの努力によって国を持つに価する存在になった、と述べています。

出典:Economist ‘Set the Kurds free’ (February 21-27, 2015, p. 14-15)
http://www.economist.com/news/leaders/21644151-case-new-state-northern-iraq-set-kurds-free

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 イラクのクルド地域の独立の条件が、これまでで最も整いつつあるというのは、エコノミスト誌の社説の言う通りなのでしょう。

 イラクの統治が宗派対立などで弱体化し、不安定なのに対し、クルド人自治区は安定し、経済的にも繁栄し、事実上独立国の様相を呈してきています。ただし、当面のイラク・クルドの最優先課題はISILとの戦いです。2014年7月に自治区のバルザニ大統領が2014年中に自治区の独立に関する国民投票を実施すると発表しましたが、同年9月になって投票の延期を発表したのは、8月にクルド地域に厳しい態度を取っていたマリキ首相が退陣したこともさることながら、ISILの脅威が自治区に迫り、ISILとの戦いに全力を挙げる必要に迫られたためと思われます。

 事実ISILは一時自治区の首都アルビルに肉薄し、米軍の空爆でかろうじてアルビル防衛に成功しています。ISILが占拠しているモスルはアルビルの近くです。ISILはクルド人自治区を脅かす現実の脅威なのです。ペシュメルガ(イラク・クルド人自治区の治安部隊)が、ISILの攻撃にさらされたシリアのクルド地域の町コバルの防衛に駆けつけたのは、クルド人の同胞意識からというよりは、ISILの勢力拡大を防ぐためであったと考えられます。イラクのクルド人は、ISILの脅威が無くなって、あらためて独立問題と取り組むことになるのでしょう。

 なお、社説は、イラク・クルドとトルコの関係が好転した理由として、トルコのクルド人が今や独立を望んでいないことを挙げていますが、イラク・クルドとトルコの経済関係が密接なことも重要な要因です。トルコはイラクのクルド人自治区の石油を必要としていて、自治区から、一日当たり12万バレルの石油の供給を受けています。他方、トルコから自治区への輸出も盛んです。自治区の首都アルビルの新空港はトルコの企業が建設しました。このように、トルコとイラクのクルド人自治区は、経済的に相互依存関係にあります。

  
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